農業分野において、ドローンは人手不足解消や作業の効率化など様々な問題の解決に期待を集めています。
農業での代表的なドローン活用事例といえば、機体に農薬を積載して畑などに散布する「農薬散布」です。
今回はドローンを活用した農薬散布のメリット・デメリットや農薬散布に関わる法規制、農薬散布業務にドローンを導入するまでの流れを詳しく解説いたします。
ドローンの農薬散布に必要な免許・資格の有無についても記載していますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 農薬散布ドローンの活躍の場
- ドローンによる農薬散布のメリット・デメリット
- ドローンで農薬散布する場合に係る法律・規制
- ドローンの農薬散布に必要な免許・資格の有無
- 農薬散布業務にドローンを導入するまでの流れ
農薬散布用ドローンとは
一口にドローンと言っても、100g未満の軽量タイプや高画質な写真・動画撮影に対応したタイプなど、モデルごとに重量や機能などが異なります。
農薬散布用ドローンは、その名の通り農薬の積載・散布が可能なドローンのことを指します。
一般的なドローン同様に、「農薬散布用ドローン」も様々なメーカーが開発しているため、農薬散布業務にドローンを活用する際は専用の機体を導入しましょう。
農薬散布ドローンは産業ヘリよりも軽量かつコンパクトなため、1人でも積み下ろし~農薬散布まで行えるという特徴があります。
農薬散布用ドローンが活躍する場所
農薬散布用ドローンは、主に以下のような場所で活躍しています。
田畑
農薬散布用ドローンは、田んぼや畑での農薬散布に用いられる場合が一般的です。
特に夏場は炎天下で動噴機械を背負いながらの作業は重労働となりますが、ドローンを使えば、厳しい気候の日でも田んぼや畑に入る必要はありません。
また、ドローンは産業用ヘリよりも小回りが効くので、小規模な田んぼや畑でも人の手を使わずに農薬を散布することができます。
果樹園
近年はりんごやみかん、ぶどうなどの果樹に対する農薬散布のドローン活用も期待を集めています。
中国の大手ドローンメーカー「DJI」からは自動で障害物を避けたり、雑草と果樹を見分けたりできるドローンも発表されました。
国内の果樹園における農業散布ドローンの導入例は、未だ少ないのが現状です。
しかし、果樹園にも対応したドローンの普及拡大や技術の進歩によっては、導入する農家も増えていくことが見込まれます。
ドローンで散布可能な農薬とは
ドローンを使う場合に限らず、農薬登録制度に従い登録を受けた農薬のみ散布することができます。
農薬登録制度とは、農薬取締法に基づき「基準に従って使えば安全であると判断できる」かどうかを農林水産省が審査・登録する制度のことです。
その中で「ドローンに適した農薬」として登録されている農薬であれば、ドローンでの散布が可能です。
農薬登録制度にて、無人航空機・無人ヘリコプターによる散布または無人航空機・無人ヘリコプターによる滴下の使用が可能とされている農薬がこれに該当します。
現時点で登録済みの「ドローンに適した農薬」は、以下の農薬登録情報提供システムより検索が可能です。
ドローンによる農薬散布のメリット・デメリット
ドローンを用いた農薬散布のメリットとデメリットをご紹介いたします。
メリット
広い面積でも少人数・短時間で農薬散布を行うことができる
農薬散布にドローンを用いる上で最大のメリットとも言えるポイントが、「効率的な農薬散布」です。
人の手で行う従来の農薬散布方法は時間がかかるだけでなく、圃場の規模によっては人手も必要とします。
一方、ドローンであればコンパクトなため機体の積み下ろし・農薬散布・片付けまで1人で行うことが可能です。
機体により速度が異なる場合もありますが、概ね1haの圃場であれば10分程度で農薬散布を完了できるため大幅な時間短縮にもつながります。
いつでも好きな時に農薬散布できる
自身で農薬散布を実施することが難しく、業者に委託をしても
「散布予定が決められているので害虫が発生してもすぐに対処できない」
「雨が降ると長期延期になってしまう」
といった悩みを抱える農家の方も少なくありません。
しかし、ドローンであればどんなタイミングでも適宜散布を行えるため、作物の品質を保つことができます。
体力に自信がない方でもラクに農薬散布が行える
ドローンは、小型かつコントローラーによる操縦だけで農薬を散布することができます。
そのため、女性や高齢者など体力に自信がない方でも作業による体への負荷がかかりません。
農業界で進む高齢化が危惧されている中、高齢者の方も簡単に農薬散布ができるツールであるドローンの存在は、今後も一層重宝されることになるでしょう。
デメリット
導入には数百万円の初期投資が必要
農薬散布にドローンを導入する際、様々な初期費用が必要となります。
機体を購入する際にかかる費用だけでなく、ドローンを運用するために必要となる資格取得に伴い、ドローンスクールへの受講費用も発生するのです。
ドローンスクールの受講費用は、100,000円~400,000円程度が相場と言われています。
また、機体を購入するにしても農薬散布ドローンは1,000,000円以上かかるものが多く、継続的に運用するには毎年のメンテナンス費も必要です。
とはいえ、ドローンの場合は機体の耐久力が高いモデルも多いため、メンテナンス費用は無人機における相場に対してそう高くはなりません。
操縦・ドローンに関する知識が必要
ドローンを操縦するには、操縦技術はもちろん機体に関わる知識も必要となります。
直接操縦をせずに自動操縦で運用するにしても、PCやタブレットなどの端末操作が必要となります。
そのため、そういった機器の扱いに抵抗のある方は導入が難しくなる可能性があります。
- ドローンを操縦する自信がない
- いざ機器にトラブルが発生した際どうすれば良いか分からない
という方は、専用のサポートデスクや農薬散布ドローンの実技講習などを活用しましょう。
申請の手間がかかる
ドローンで農薬散布を行うということは、航空法の規制対象となっている「危険物輸送」や「物件投下」に該当します。
航空法の規制対象である飛行方法を実施する際は、国土交通省へ飛行許可申請を行わなければなりません。
ただし、ドローンの国家資格または国土交通省から認定を受けた団体の民間資格を取得していれば、申請の一部を簡略化することが可能です。
ドローンで農薬散布を行う際に関わる規制や法律とは
先述の通り、ドローンによる農薬散布は法規制に従って行う必要があります。
ここでは、ドローンで農薬散布を行う際に注意するべき法規制をご紹介いたします。
航空法
屋外でドローンを飛ばす場合、航空法にて様々な場所や飛行方法について制限が設けられています。
以下のような場所・飛行方法に該当するドローン飛行を実施する場合、国土交通省へ飛行許可申請を行わなければなりません。
<飛行場所>
- 空港等周辺の空域
- 150メートル以上の上空
- 人口集中地区の上空
<飛行方法>
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人、物件から30メートル未満での飛行
- 催し場所上空での飛行
- 危険物輸送
- 物件投下
農薬散布を行う場合、少なくとも「危険物輸送」や「物件投下」という方法に該当するとみなされるため国土交通省への飛行許可申請が必要となります。
また、場合によっては「人、物件から30メートル未満での飛行」や「夜間飛行」に該当する場合もあるため注意しましょう。
航空法により定められたドローンの規制ルールについては、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらも参考にしてみてください。
農薬取締法
農薬を使用する者が遵守するべきルールとして定められた農薬取締法です。
「農薬を使用する際は農作物や人畜などに害を及ぼさないようにすること」などのルールが定められています。
ドローンで農薬散布を行う場合も農薬取締法のルールを守る必要がある他、以下のポイントも遵守することとされています。
農薬ラベルに記載されている使用方法を遵守しなければならない
ドローンで農薬散布を行う場合、農薬ラベルに記載されている使用方法を遵守しながらドリフトが起こらないように注意しなければなりません。
万が一農薬のドリフトが発生した場合、都道府県の農薬指導部局へ報告する必要があります。
「空中散布ガイドライン」の確認も必須
農林水産省が提示している「空中散布ガイドライン」を確認したうえで、散布を行う前に散布計画書を作成することも義務付けられています。
- 散布の実施区域周辺の地理的状況
- 収穫間近の圃場が近接していないか
など作業環境を十分に考慮したうえで、以下の次項について記載した計画書を作成します。
- 実施場所・実施予定月日
- 作物名
- 散布農薬名称
- 10aあたりの使用料または希釈倍数
参考:無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン
ドローンで農薬散布を行う場合、免許や資格は必要?
ドローンの農薬散布において取得が必須とされている免許や資格はないため、無免許・無資格で実施しても問題はありません。
必須ではないが免許(国家資格・民間資格)取得はおすすめ
2022年12月に導入された、ドローンの国家資格制度については詳細を確認しておくことをおすすめします。
ドローンの国家資格は、「一等資格(一等無人航空機操縦士)」と「二等資格(二等無人航空機操縦士)」という2つの区分があります。
取得すれば、区分に応じて航空法で規制対象とされている一部の飛行方法の許可申請が免除されるという仕組みです。
農薬散布においてドローンの免許・資格取得は義務付けられていないものの、許可申請による手間を省けるメリットを考えると取得を目指して損はないでしょう。
なお、国土交通省から認定を受けている講習機関にて民間資格を取得済みの場合、国家資格取得に必要な試験内容が一部免除されます。
ドローンの資格・免許の有無にかかわらず「農薬の散布」の知識は不可欠
農薬散布の場合、ドローンを使って薬剤を正しく的確に散布するための知識や技術も必要です。
そこで、「農林水産航空協会(農水協)」や「UTC農業ドローン協議会」などの団体では、ユーザーがドローンで正しく安全に農薬散布を行えるように認定教習所にて講習を開催しています。
また、農水協では農業用ドローンの機体性能について安全基準を満たしているかどうかもテストしています。
安全基準を満たしていると認定を受けた機体を扱うには、認定教習所を受講して資格を取得することが必須となるのです。
主要なメーカーの農業用ドローンはほとんど農水協認定機となっています。
ドローンによる農薬散布は認定教習所の受講・資格取得が実質必須と認識して良いでしょう。
ドローンでの農薬散布を決定してから農薬散布するまでの流れ
農薬散布作業にドローンを導入するとなった場合、実際に散布を開始するまでの基本的な流れは以下の通りです。
具体的にどのようなことをすればよいのか、手順ごとに詳しく解説いたします。
1.農林水産省航空協会認定スクールで講習を受ける
先述の通り、ドローンで農薬散布を行うには「農水協」が認定したスクールを受講し、試験に合格して技能認定を受ける必要があります。
認定スクールは全国各地にあるため、通いやすい場所を選びましょう。
スクールの選び方
認定スクールについては、農水協ホームページの「産業用マルチローター教習施設検索」ページより確認可能です。
通いやすい都道府県を選択し、スクールの情報を確認しましょう。
アクセスはもちろんのこと、資格取得に加えて機体販売やメンテナンスなどのサポートをセットで提供しているスクールもあります。
今後は長く農薬散布ドローンを運用し続けることも考えて、アフターフォローが充実しているスクールを選ぶと良いでしょう。
スクール受講の費用(料金)相場
受講費用はスクールにより異なります。
農薬散布について学ぶコースの場合は200,000~400,000円程度が相場です。
相場の最低ラインでも決して小さな出費とは言えませんが、安価なスクールではサポート体制が十分に整っていなかったり、講師のレベルが十分でないといったケースもあります。
スクールを選ぶ際は費用だけでなく、設備や講師などあらゆる視点から選ぶことが大切です。
2.講習受講終了後、技能認定証を取得
認定スクールにて座学・操縦実技講習を修了した後、技能認定に合格すれば農薬散布ドローン操縦士として資格が与えられます。
「産業用マルチローターオペレーター技能認定証」が交付されるため、これで農水協の認定機を操縦することが可能となるのです。
なお、ドローンの機体によってスクールで習う座学・操縦実技講習の内容は異なります。
そのため、一度技能認定を受けた機体とは別のドローンを運用する場合は、その都度試験を受けて資格を取得する必要があるため注意しましょう。
3.機体購入
資格(技能認定証)を取得したら、農薬散布を行うための機体を購入します。
農薬散布をしたい面積を考慮しつつ、機体ごとに異なる農薬のタンク容量や飛行可能時間などの性能をチェックすると良いでしょう。
また、自動飛行機能が搭載されている機体であれば操縦技術に関わらず安定した飛行ができるため、作業にかかる労力や時間をより削減することができます。
農薬散布用ドローンの新品・中古価格相場とは
農薬散布用ドローンの相場は以下のようになっています。
- 新品の価格相場:100万円〜300万円程
- 中古品の価格相場:50万円~100万円
機体によっては、新品でも100万円を下回る場合もあります。
しかし、タンク容量が5Lのみなど比較的小規模な圃場での使用に適しているタイプが多いです。
タンク容量が多かったり、機能が充実している機体ほど価格も高くなる傾向にあります。
農薬散布用ドローンはどこで販売されている?
新品の農薬散布ドローンは各メーカーの専門店や特約店、オンラインストアページなどから購入可能です。
また、講習と同時に機体の販売を行っているドローンスクールもあります。
中古品の場合は「ヤフオク」などのフリマサイトから購入可能です。
状態が良いものを新品よりも安く入手できるというメリットがありますが、整備が不十分で購入後すぐに故障してしまう可能性があるというリスクも潜んでいます。
中古品を購入する際は出品者や機体の状態などの情報を確認しながら慎重に選びましょう。
おすすめの新型農薬散布用ドローン
農薬散布用ドローンは様々な機体が登場しており、それぞれ異なる性能を持っています。
ここでは、おすすめの農薬散布用ドローンについて性能と共にご紹介いたします。
①DJI/Agras T20 日本版
高い作業効率性と最新の飛行制御技術で、田畑だけでなく果樹園でも運用可能な高性能農業用ドローンです。
耐久性にも優れながら、数秒で折りたたみ・展開が可能な設計により携帯がしやすく、より作業をスムーズに進めることができます。
メーカー | DJI |
価格 | 約160万円 |
積載可能容量 | 液剤16L、粒剤16kg |
飛行可能時間 | 10分~15分 |
散布可能面積 | 7m(散布幅) |
機体重量 | 23.1kg |
機体サイズ | ・2509×2213×732mm (アーム、プロペラ展開時) ・1795×1510×732mm (アーム展開、プロペラ折りたたみ時) ・1100×570×732mm (アーム、プロペラ折りたたみ時) |
②ヤマハ発動機/YMR-08
産業用無人ヘリコプターの開発・散布事業を通じて、日本の農業現場で防除ノウハウを培ってきたヤマハ製の農業用ドローンです。
パワフルなダウンウォッシュにより薬剤が作物の株元まで届き、前後対称の二重反転ローターでムラのない農薬散布を可能とします。
メーカー | ヤマハ発動機 |
価格 | 約157万円~ |
積載可能容量 | 液剤10L、粒剤10kg |
飛行可能時間 | 15分 |
散布可能面積 | 5m(散布幅) |
機体重量 | 24.9kg以下 |
機体サイズ | ・2181×1923×669mm (フライト時) ・1799×559(フレーム),573(スキッド)mm (収納時) |
③MAZEX(マゼックス)/飛助MG DX 21年モデル
農業用ドローンの相場としてはリーズナブルな価格、コンパクトながら低燃費でコストパフォーマンスの高さが特徴的な機体です。
また飛助MG DX 21年モデルは、中山間地での扱いやすさと、導入しやすいコスト設定を前提として開発されています。
オリジナルの飛行制御装置で安全性も高く、初めて農業用ドローンを導入する方にもおすすめです。
メーカー | MAZEX |
価格 | 約55万円~ |
積載可能容量 | 5L |
飛行可能時間 | 18分 |
散布可能面積 | 62.5a |
機体重量 | 8.6kg |
機体サイズ | ・990×990×548mm (展開時) ・515×585×548mm (収納時) |
④クボタ/農業用ドローン T20K
大容量タンクと広幅散布により、規模の大きな圃場でも効率よく農薬を散布できる機体です。
タンクはカセット式となっているので、薬剤の交換やメンテナンスがしやすいという特徴も。
進化した障害物レーダーにより自動飛行時の安全性が高く、タッチパネル式のプロポで操縦も簡単に行えます。
メーカー | クボタ |
価格 | 約204万円~ |
積載可能容量 | 16L |
飛行可能時間 | 7分 |
散布可能面積 | 1.5ha |
機体重量 | 22.2kg |
機体サイズ | ・1795×1510×732mm (アーム展開、プロペラ折りたたみ時) ・1100×570×732mm (アームとプロペラ折りたたみ時) |
農薬散布用ドローンの導入には補助金が出るケースも
農薬散布用ドローンは最低でも50万円以上という価格相場。
高額で購入に躊躇してしまう…という方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、あまりに安価な機体は安全性能が十分ではないというリスクもあるため、価格だけに注目して購入することは得策ではありません。
そこでおすすめな手段が、補助金の利用です。
経営継続補助金
新型コロナウイルスの影響を受けている農林漁業者が、感染拡大防止対策を行いながら販路や生産などの経営を継続していく取り組みを支援するための補助金制度です。
「常時従業員数が20人以下の農林漁業者(個人・法人)」が支給対象者となっており、農薬散布用ドローンを購入した場合も補助金が適用されます。
なお、補助率は購入金額の3/4、金額上限は100万円です。
経営継続補助金事務局ホームページから申請の上、採択されれば補助金が支給されますが、現在は公募が実施されていません。
次回の公募については未定となっているため、詳細について知りたい方は事務局への問い合わせをおすすめします。
ものづくり補助金
他にも、中小企業や小規模事業者が申請可能な「ものづくり補助金」や地方自治体が独自に実施している補助金制度もあります。
補助金制度は自治体によっても異なる
お住まいの地域ではどのような補助金制度が制定されているのか、自治体ホームページなどで調べてみると良いでしょう。
農薬散布用ドローンを自作(DIY)することはできる?
工学など機器のDIYに関する専門知識を持っている方であれば、農薬散布用ドローンを自作することも可能と言えます。
現に、空撮用やレース用のドローンを自作のうえ使用しているユーザーは多くいます。
ドローンを自作する際、基本的に以下のパーツを揃える必要があります。
- フレーム
- フライトコントローラー
- モーター、スピードコントローラー
- プロペラ
- バッテリー
- 受信機
- プロポ
農薬散布用ドローンは、上記に加えて農薬を積載するためのタンクも必要です。
また、農薬を積載しながら飛行するために相応のパワーも備えていなければなりません。
フレームやモーターは25kg程度の重量に耐えることができるものを選びましょう。
農薬散布用ドローンを自作するなら「組み立てキット」がおすすめ
1から必要なパーツを自分で集め、組み立てるには手間がかかるものです。
そこで、最初から必要なパーツや組み立て説明書が揃っている「組み立てキット」でドローンを自作するという手もあります。
完成品の機体よりも安く販売されているため、上手く組み立てれば低コストで農薬散布用ドローンを導入することが可能です。
農薬散布用ドローンを自作する際の注意点
農薬散布用ドローンの組み立てキットは低コストという点が魅力。
ですが、商品によっては説明書が添付されておらず写真だけを頼りに組み立てなければならないケースもあります。
組み立てキットを購入する前に、組み立て時に不明な点や不良品などが見つかった場合はサポートしてくれる体制が整っているのかをよく確認しておきましょう。
また、農薬散布前に必要となる国土交通省への飛行許可申請の際、自作ドローンを使用する場合は機体の安全性を保障する資料を添付しなければなりません。
完成品のドローンよりも申請が複雑になる可能性があるため、自信のない方はドローンの自作を避けておくことをおすすめします。
4.保険加入
機体を入手したら、万が一の事態に備えて「ドローン保険」へ加入しておきましょう。
ドローン保険は、大きく分けて以下の2種類に分けられます。
- 賠償責任保険:ドローン飛行により他人や物へ損害を与えてしまった際の賠償金を補償する保険
- 機体保険:故障や盗難など、機体そのものが被る損害による修理や捜索などの費用を補償する保険
保険加入が必要な理由
ドローンを飛行させる以上、故障や操作ミスなどにより生じる落下事故のリスクは付きものです。
落下したドローンが他人や他人の所有物に損害を与えることで、場合によっては深刻な事故につながり被害者側から多額の損害賠償を請求される可能性もあります。
そんなときに損害賠償を補償してくれる保険が、ドローン保険の「賠償責任保険」です。
また、農薬散布用をはじめとする産業用ドローンは安くても50万円を超えるような高額な機体ばかりです。
機体の故障や紛失は予期せぬタイミングで生じ、買い替えや修理のために急な出費を強いられることもあるため「機体保険」に加入して機体が被る万が一の事態に備えておくと安心です。
操縦者本人がどれだけ事故や紛失・盗難に気を付けていたとしても、そのリスクをゼロにすることはほとんど不可能です。
「自分は大丈夫だから」と保険に加入せず、結果的に多額の出費を迫られる事態に陥るよりは、あらかじめ保険に加入しながら常に「もしも」のことを考えて備えておく方が安心と言えます。
以下の記事ではドローン保険についてより詳しく解説しているほか、おすすめの保険もご紹介しています。
こちらも併せてご覧ください。
農薬散布用ドローンの保険料の相場
農薬散布用ドローンの場合、メーカー側から機体購入者向けに保険プランを提供している場合も珍しくありません。
メーカーで用意されている保険の場合、保険料は機種により異なりますが年間「30,000円~100,000円」が相場となっています。
5.国土交通省への許可申請
ドローンによる農薬散布は、少なくとも航空法で規制対象となっている「物件投下」や「危険物輸送」という飛行方法に該当します。
そのため、国土交通省へ飛行許可申請を行わなければなりません。
飛行許可申請は国土交通省ホームページより専用のフォーマットをダウンロードして紙面で提出するか、オンライン申請サービス「DIPS」を使います。
飛行許可申請の具体的な手順は以下の記事で解説していますので、初めて申請を行う方は参考にしてみてください。
ドローンで農薬散布する際の注意点
農薬散布においても利便性の高さが魅力的なドローンですが、操縦ミスによるトラブルのリスクも伴います。
自分や近隣住民へ思わぬ被害を発生させないためにも、以下の点に注意しながら農薬散布ドローンを運用しましょう。
必ず近隣住民へ周知しておく
ドローンによる農薬散布の前に、まず近隣住民へ以下の点について周知しておきましょう。
- 農薬を散布する日時
- 使用する農薬の種類
- 農薬を使用する目的
事前の周知は、農薬による近隣住民への健康被害リスクを下げることにつながります。
飛行経路は周辺の環境に考慮して設定する
ドローンの農薬散布では基本的に、風下から飛行を開始して農薬を散布する「横風散布」が望ましいとされています。
使用機体の取り扱い説明書などに記されている適切な散布方法に従い、周囲が農薬の影響を受けないことを考慮しながら飛行させましょう。
また、以下のように安全性の確認が難しい場所が散布区域に含まれている場合は、より慎重な検討が必要です。
- 学校や病院など公共施設の付近
- 水源地や浄水場、河川の周辺
- 高圧線、発電所、変電所、電波発信施設などの周辺
- 家畜、養蜂、養魚、有機農産物、無農薬作物の生産圃場の周辺
ドリフトの防止策を十分に講じる
ドリフトとは、散布区域外に農薬が飛散してしまうトラブルのことです。
散布区域周辺の地理状況や耕作状況などを十分に考慮しながら、ドリフトが起こらないように十分な対策を講じる必要があります。
ドリフトの防止対策として挙げられる対策例としては、以下の通りです。
- 空中散布を行わない区域の設定
- 散布薬剤の選定(周囲の農作物にも適用のある農薬、飛散の少ない剤系の粒剤など)
- 近隣に影響が出にくい天候や時間帯の実施(安全な風向きや風が弱い日など)
- 飛行速度は遅く、飛行高度は低くする
- 飛散が少ない散布装置やノズルを選定する
- ドリフトを避けるべき対象に向かった散布は極力避ける
- 散布中の機体の引き起こしや旋回は控える
- 周囲の耕作者に周知のうえ、収穫日時のタイミング変更や作物の保護などを呼び掛ける
農薬から体を保護するための装備も忘れない
農薬は皮膚や粘膜に直接触れると健康被害につながります。
安全性に万全を期すため、遠隔操作をするドローンで農薬散布を実施する場合にも保護装備を必ず用意しましょう。
農薬散布時に必要な装備としては、以下の通りです。
- マスク(農薬用マスク、防塵マスク、保護マスク)
- 保護メガネ
- 防除⾐または長袖の上着と長ズボン
- ヘルメット
なお、マスクや保護メガネに関しては「労働安全衛生法に基づく形式検定に合格していること」「光学性能⾯、耐衝撃性及び耐摩耗性に基づいて作られたメガネであること」などの条件も明示されています。
詳細については、農林⽔産省消費・安全局植物防疫課が公表している以下の資料を参考にしましょう。
参考:無⼈航空機による農薬等の空中散布に関する Q&A (使⽤者向け)
農薬散布用ドローンの導入が難しい場合は、レンタルや請負サービスを活用するのもおすすめ
農薬散布ドローンを導入するにも、まとまった資金がなく導入が難しいという場合はレンタルや農薬散布請負サービスを利用するという手もあります。
レンタルを利用する場合
レンタルの場合、ドローンレンタルサービスを利用する形が一般的です。
サービスによって用意されているドローンの種類は異なりますが、農薬散布ドローンをレンタルするのであれば産業用ドローンが充実しているところを選びましょう。
レンタルする場合の価格(値段)相場
農薬散布ドローンのレンタルにかかる費用は、1日当たり「30,000円~50,000円」程度が相場となっています。
レンタルサービスによっては、レンタルする日数が多いほど費用が割安となる場合もあるため料金設定についてよく確認しておくと良いでしょう。
レンタルするメリットとは
レンタルにおける最大のメリットは、機体を購入するよりも低コストでドローンを導入することができるという点です。
また、将来的に機体の購入も視野に入れているものの、事前に機能や操作感を試しておきたいという方も多く利用しています。
請負サービスに依頼する場合
自分でドローンを導入のうえ操縦することが難しい場合、ドローンを活用した農薬散布の請負サービスに依頼することも可能です。
防除請負業者だけでなく、農薬散布・測量・点検・空撮など幅広い分野の業務をドローンで遂行する請負業者も増えています。
請負してもらう場合の価格(値段)相場
農薬散布の場合、作業料金は散布が必要な面積に応じて変化します。
相場としては、「10aあたり1,500円~2,000円」程度です。
請負してもらうメリットとは
農薬散布請負サービスを依頼すれば、自分がドローンを操縦せずに農薬散布を行えるためドローンに関する操縦技術や知識を身に付ける必要はありません。
機体の購入やスクール受講費、ドローン保険の保険料といった費用もかからないため低コストで農薬散布を行うことができるのです。
ただし、自分で操縦ができない以上好きなタイミングで農薬を散布することはできないという点は注意しておきましょう。
農薬散布ドローンを自分で運用するか請負会社に依頼するか迷ったら
自分でドローンを運用して農薬散布をするか、請負会社に代行を依頼するか判断するうえで重要なポイントは「作地面積の広さ」です。
作地面積から自分で運用か依頼かを判断する方法
例えば55万円の農薬散布ドローンを購入のうえ運用する場合と、10aあたり1,500円の請負会社に年3回の散布を依頼する場合で比較してみましょう。
作地面積が4haの場合、請負会社に農薬散布を依頼すると1回あたりの料金は「1,500円×4ha(10a×40)=60,000円」です。
年間コストにして180,000円となり、ドローンの購入費用(55万円)分の支出は3年程度で回収できます。
一方で作地面積が2haの場合、請負会社に農薬散布を依頼すると1回あたりの料金は「1,500円×2ha(10a×20)=30,000円」、年間コストにして90,000円かかります。
ドローンの購入費用である55万円分を回収するには、6年程度の期間が必要です。
コスト回収期間については人それぞれ許容範囲が異なると同時に、購入を検討しているドローンの費用によっても変わります。
しかし、基本的には作地面積が広いほど自分でドローンを購入した方がお得になると考えて良いでしょう。
安く依頼したいなら農協への問い合わせもおすすめ
ドローンによる農薬散布の代行サービスは、民間の請負会社だけでなく農業協同組合(農協)から提供されていることもあります。
従来の農協で依頼できる空中散布と言えば、ヘリコプターを用いた方法でした。
しかし「実施可能な場所が限られる」「費用が高い」などのデメリットから、ヘリコプターではなくドローンを導入する農協が増えています。
ただしすべての地域の農協にドローン農薬散布が普及しているわけではないため、まずは管轄の農協に確認してみましょう。
農協によるドローン農薬散布の代行サービスは民間の請負会社よりも料金が安い傾向にあるため、低コストで代行を依頼したい方におすすめです。
ドローンで農薬散布を行う際のよくある質問
最後に、ドローンによる農薬散布についてよくある質問を回答と一緒にまとめました。
ドローンで散布できる登録農薬はどこで確認できる?
登録農薬は、農林水産省が提供している「農薬登録情報提供システム 」にて確認可能です。
農薬名・作物名・病害虫・有効成分など様々な項目から検索できるので、活用をおすすめします。
低価格の農薬散布用ドローンはある?
農薬散布ドローンの価格相場最低ラインである100万円を切る機体では、マゼックスの「飛助mini」やFLIGHTSの「FLIGHTS-AG V2」などが有名です。
より安く機体を入手したい場合は、中古品の購入やレンタルサービスの利用を検討しても良いでしょう。
農薬散布用ドローンのメーカーで有名なところは?
農薬散布用ドローンを提供しているメーカーでは、特に「DJI」や「クボタ」、「ヤマハ発動機」は農業の現場でも名前が挙がることが多いです。
各メーカーの特徴としては、以下の通りです。
●DJI
世界最大のシェア率を誇る中国の大手ドローンメーカーです。
農薬散布ドローンに関しては、大容量タンクや全方向デジタルレーダー、マルチスペクトルカメラなど革新的な機能改良を行い、高性能な機体を開発しています。
●クボタ
日本国内において有名な大手農機メーカーで、今は日本だけでなく世界の農機業界をけん引する存在とも言えます。
クボタの農薬散布ドローンはDJIを製造元としており、OEMに近い形で販売しています。
全国のクボタグループ販売店を通じたアフターサービス体制が充実している点も特徴です。
●ヤマハ発動機
オートバイなどの輸送用機器製造メーカーとして有名な企業です。
長年にわたる産業用無人ヘリコプター開発で培われたノウハウを活かした自社製品ドローンを販売しており、他社ドローンよりも優れた耐久性やパワフルなダウンウォッシュが特徴的です。
ドローンによる農薬散布と地上散布に効果の違いはある?
ドローンを使うことで、決められたルート上に一定のペースで農薬を散布することができるため手作業での地上散布よりもムラなく作物に農薬が届きます。
さらに、ドローンは1分間で約10aのペースで農薬を散布するため作業時間の大幅な短縮にもつながるのです。
ドローンの農薬散布に必要な免許・資格はある?
ドローンを飛ばすだけなら、免許・資格の取得は必須ではありません。
ただし安全性の高い農水協認定機の農業用ドローンを使う場合は、農林水産省航空協会認定スクールを受講のうえ資格(技能認定証)の取得が必要です。
また、ドローンの国家資格または国土交通省認定のスクールで取得可能な民間資格を取得しておけば、飛行許可申請の手間を省くことができます。
まとめ
農薬散布にドローンを活用することで、誰でも短時間かつ高効率で作業を行うことが可能となります。
人手不足や高齢化が問題視されている農業界において、ドローンはより一層注目される存在となるでしょう。
ドローンの操縦に関して取得必須な免許や資格はありませんが、農薬散布を行う場合は技能認定証の取得が必要です。
農薬散布にドローンの導入を検討している方は、今回の記事を参考に必要な準備を整えて是非ご自身の業務に活かしてみてください。