趣味目的の飛行や空撮だけでなく、今やあらゆる事業で業務活用されることが増えたドローン。
ドローンの業務活用において、代表的な分野が「建物やインフラの点検」です。
今回はドローンによる点検とは具体的にどういうものなのかを事例と共に解説しながら、メリット・デメリットもご紹介いたします。
- ドローンを活用した点検作業とは?
- ドローン点検の5事例
- ドローンを点検に活用するメリット・デメリット
- ドローン点検の費用
- ドローン点検の今後について
ドローンを活用した点検作業とは

ドローンの機能性は目覚ましい進化を遂げており、現在は赤外線を搭載した機体や高性能なセンサーによる精密な飛行を可能とする機体が続々と登場しています。
近年の建設業界ではドローンの優れた機能性を活かし、屋根・マンションの外壁・橋梁・発電施設の高所・道路・鉄道などあらゆる施設やインフラの点検作業に役立てています。
具体的には、通常のカメラを搭載したドローンから送られる映像を人が目視で点検する、赤外線カメラを使用して人の目では分かりにくい異常値を探すといった使い方がされています。
「インプレス総合研究所」が公表したドローンビジネス調査報告書2021によると、ドローンビジネスにおける点検作業における市場規模は年々拡大を続けていることが分かります。
2025年度には1,715億円にものぼると予測もされており、ドローンは今後の点検市場に一層浸透してくと考えられます。
ドローンによる点検が注目される理由
先述したドローンビジネスにおける市場規模の傾向から、点検市場においてもドローンの注目度が高まり続けていることが伺えます。
その理由として、以下4つのポイントを挙げることができます。
安全かつ効率的に点検が行える
一口に点検作業と言っても様々な現場で業務が行われますが、高所や狭所など危険を伴う場所もあります。
また、近年はインフラの老朽化による崩落事故が相次いで発生していることも、社会問題となっています。
従来はそのような場所でも人が入り、目視で点検を行う必要がありました。
ドローンは人よりも小さく上空を飛行することができるため、人が立ち入れない場所でも難なく点検作業を行えます。
ドローンで撮影した映像は遠隔からリアルタイムで確認することもでき、安全かつ効率的な点検が可能となるのです。
人件費削減
現在、日本では少子高齢化の影響により様々な業界で人手不足が問題視されています。
建設業界の点検においても例外ではなく、危険を伴う場所での点検を行える人材が減少傾向にあるのです。
そのため1人あたりの人件費が高額となり、十分な数の人材を揃えることが難しくなっています。
ドローンであれば人が行っていた作業を代わりに実行してくれるため、少人数での作業が可能です。
点検に伴う手間はもちろん、人件費の削減にもつながります。
スピーディな点検が可能
ドローンは遠隔操作や自律飛行が可能なので、作業員が現場に足を運ばなくても点検作業を進めることができます。
高所の点検で足場を組んだりといった事前準備も付与なので、作業時間の大幅な短縮も可能です。
これにより、1日の作業件数を増やすことができるという副次的なメリットも得られます。
ドローンに関する規制の緩和
航空法では、特定の区域でドローンを飛行させるにあたって国土交通大臣の許可・承認が必須とされています。
しかし2021年9月に多様な産業でのドローン活用を普及させるため、ドローンを含む無人航空機の飛行規制が一部緩和されました。
規制緩和でドローンを導入しやすくなったことも、点検分野でドローンの浸透度を高めた一因と言えます。
緩和された規制内容は、以下の2つです。
高層の構造物周辺でのドローン飛行の緩和
従来の規制では、「地表面などから150m以上の上空」を飛行する場合は国土交通大臣の許可が必要でした。
そのため、高層の構造物を点検する場合は許可申請を行わなければならず手間がかかります。
しかし規制緩和後は、「高層の構造物から30m以内」であれば許可不要で飛行ができるようになりました。
人口密集地や夜間の飛行の緩和
ドローンの飛行は場所だけでなく、時間帯や飛行方法に関する規制も設けられています。
その一部である「人口密集地」「夜間」「人・物から30m以内の距離」での飛行は、規制緩和により国土交通大臣の許可が不要となりました。
ただし、許可なく飛行を行うには以下の条件を守る必要があります。
- 十分な強度かつ30m以下の紐でドローンを係留すること
- 飛行区域に第三者が立ち入らないよう制限すること
ドローン点検の事例
ドローンを活用した点検の具体的な事例をご紹介いたします。
道路・橋・地下などのインフラ点検
道路局では、道路や橋梁などの定期点検において平成31年2月よりドローンの活用を開始しました。
従来は作業の度に通行規制を実施したうえで、橋梁の場合は橋梁点検車を使い目視点検を行っていました。
ドローンの活用により橋梁点検車や通行規制が不要となり、道路利用者の利便性を妨げないだけでなく点検コストの削減にも寄与しています。
また、鉄道では東京メトロが地下鉄トンネルの立坑等における点検にドローンを活用しています。
トンネル内は作業空間が狭く 足場の設置スペース確保が困難なため、従来の方法では準備に手間取り作業時間が常にひっ迫している状況にありました。
この状況を改善するべく、東京メトロは自動飛行やデータ伝送機能などを搭載したドローンを導入。
徒歩による点検で高所にひび割れなどを疑う箇所を発見した場合、足場を組まずその場でドローンを使い確認するといった活用がされています。
関連記事:ドローンなど使い保守・点検高度化へ 東京メトロ、タブレットで業務効率化
高所の屋根や外壁などの点検
屋根や外壁といった点検業務でも、ドローンを活用する建設系企業が増えています。
例えば外壁・屋根塗装や屋根修理といったリフォーム事業を手掛ける企業では、ドローンによる屋根・外装点検サービスを実施しています。
従来の方法では45分以上は要する高所の作業でも、ドローンの活用により10分程度までの短縮が可能としています。
また、作業員が高所に登ることはないため、作業員・屋根のどちらの安全も確保することが可能です。
ガス施設や事故現場などの危険な場所
ガス施設や事故現場など、人が立ち入るには高い危険性が伴う場所の点検でもドローンが活躍しています。
ある企業ではドローンを活用した石油・ガス点検サービスを展開しており、陸上や海上の石油・ガス施設の点検をドローンで代行しています。
ガスや障害物などの危険な要因に晒されても影響を受けにくいドローンであれば、安全かつ効率的な点検作業が可能な場をさらに広げることができます。
風力やソーラーなどの発電施設
人々のライフラインに関わる、風力発電タービンやソーラーパネルといった設備の点検にもドローンが使われています。
風力発電タービンの場合、送電線や鉄塔のように高さがあるだけでなく人々が住まう土地から離れたエリアに位置します。
作業員が点検のためにタービンへ登る必要があり、作業には決して低くないリスクが伴います。
以下の動画は海外の企業によるものですが、ドローンで風力発電タービンのメンテナンスを実施している事例です。
陸上・海上問わずリスクを最小限に抑えながらの点検を可能としています。
工業プラントでの点検
総務省消防庁・厚生労働省・経済産業省による「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」より、石油精製や化学工業におけるプラント点検のドローン活用事例が公表されています。
化学工業では旭化成株式会社、石油精製では大阪国際石油精製株式会社などがプラント点検でドローンの活用実績を残しています。
そして、多くの企業がメリットとして「コストダウン」や「災害緊急時の迅速な状況把握」といったポイントをメリットに挙げていました。
一方で、危険物を扱う設備に近づけず点検に必要な画像が撮影できない、機体落下時の安全性確保といった課題点も挙げられています。
徹底したリスク対策と機体の性能という面ではまだ伸びしろがある分野ですが、今後もドローンを導入する企業は増えていくことと思われます。
ドローンを点検に活用するメリット

あらゆる業界において点検作業に活用されているドローン。
ドローンを点検に活用することで、以下のようなメリットが生まれます。
安全に点検できる
ドローン点検における最大のメリットは、安全性を確保しながらの作業が可能なことです。
高所や狭所、危険物を扱う施設などは専用の点検車や足場を使って作業員自らが点検を行うため、少なからず落下・ケガといったリスクが伴います。
ドローンであれば、従来は人が行っていた点検のほとんどを任せることができます。
作業員は安全な地上から機体を操作するだけで良いため、事故の未然防止につながります。
自律飛行に対応した機体を活用すれば、作業員の操縦ミスによる墜落やロストの危険性も回避することが可能です。
短時間で点検できる
人が行う点検作業では、足場や橋梁点検車などを用意するといった安全確保のための準備が欠かせません。
先述の通り、ドローンは地上から機体を操作すれば点検作業が行えるため準備の時間を大幅に短縮することができます。
また、ドローンは上空から広範囲の撮影が可能なので、作業員自らが足を運ぶよりも効率的に点検作業が進みます。
少人数で点検できる
高所や橋梁を点検するにあたって足場・橋梁点検車を用意する場合、技術者だけでなく足場を組む作業員や車両を運転するドライバー、交通整理を行う人員などが必要です。
例えば下記の橋梁点検業務に関する報告によると、橋梁点検車を用いた点検では運転手1名・オペレーター1名・点検車2名・安全管理者1名・交通誘導員3名で合計8名の人員で行われていました。
点検支援技術を活用した橋梁点検業務 業務におけるBIM/CIM活用事例について
一方、ドローンによる点検ではドローン操縦者1名・GPS管理者1名・撮影管理者1名・安全管理者1名の合計4名に抑えられたという実績が残っています。
AIと映像解析で効率的な点検ができる
ドローン高性能カメラが搭載されている他、AIや映像解析と組み合わせて活用することも可能です。
例えばドローンで撮影・データ化した画像や映像をAIで解析し、効率的な点検・修理計画を立てることができます。
データを蓄積していけば、それをもとにした経年変化の調査や管理も可能です。
機体によっては屋内の狭所における異常も検知可能な赤外線カメラが搭載されており、場所を問わず高精度な点検も実現できます。
機体によって得意な分野は異なるため、実際に活用したい現場に適したドローンを導入すれば高精度かつ高効率な点検作業を実現できることでしょう。
映像をリアルタイムに配信することができる
ドローンで撮影中の映像はデバイスに伝送されるため、操縦中もリアルタイムで現場の状況を確認することができます。
ドローンのカメラで広範囲に撮影しながら、その状況を作業員だけでなく専門家やクライアントと一緒に確認できるため効率良く点検作業が進みます。
コストを抑えられる
先述した「少人数で点検できる」というメリットは、コストの削減にもつながります。
現場の点検に際して足場を組んだり点検車を用意したりといった作業には、人員だけでなく人件費も必要です。
ドローンによる点検なら少ない人員で作業が進むため、そのぶんの人件費も削減可能です。
機体の導入による初期コストはかかりますが、中長期的な目線で考えると従来の方法よりも綜合的なコストは抑えることができます。
ドローンを点検に活用するデメリット
ドローンによる点検は様々なメリットがある一方、以下のようなデメリットも潜んでいます。
問題箇所を直接確認できない
ドローンによる点検はあくまでカメラやセンサーを介した目視点検となるため、人が直接触れて確認することができません。
従来の外壁点検では、テストハンマーなど専門の道具を使って壁を叩いて音を聞き、その音から異常を判断するという「打診調査」が行われていました。
しかしドローンでは打診調査が不可能なため、音により判明する異常まではカバーできません。
また、外壁材と接着剤の剥離といった触診・目視で判断できる異常も検知できないという弱みもあります。
墜落や事故の可能性がある
プロが操縦するドローンを見ていると簡単に安定した飛行ができると思ってしまいがちですが、実際は高度な操縦スキルが求められます。
飛行中は常に機体の墜落や衝突事故などのリスクと隣合わせとなっているため、事故防止対策を徹底しなければなりません。
近年は多くのドローンスクールでドローンの業務活用を前提とした講座が実施されているため、導入前に飛行技術や安全管理などの知識を十分に身に付けることが大切です。
天候に左右されスケジュール通りに点検できない可能性がある
屋外でドローンによる点検を行う場合、その日の天候に注意が必要です。
ドローンにとって雨や風は大敵で、熟練の操縦者でも安全に飛行させることが難しくなります。
また、ドローンは精密機器なので防水機能が備わっていない限り雨の日に点検を行うと故障する恐れがあります。
国土交通省が公表しているドローンの飛行マニュアルでは、「地表から1.5m程度の上空で風速が5m/s以上ある場合は飛行をしないこと」と記されています。
この風速は、飛行許可申請の際に国土交通省の飛行マニュアルを使った場合に守るべき数値です。
一般的に5m/s以上の風速でドローンを飛行させると墜落のリスクが格段に高まるため、飛行を控える必要があります。
ドローンを飛行させることで騒音問題になる可能性がある
ドローンはどの機体もプロペラの羽音がするため、近隣の住民に不快感を与える恐れがあります。
音の大きさは機体によって異なりますが、業務活用されることが多い「Phantom4 Pro」の場合は室内で約80dbの音が生じます。
数値としては水洗トイレを流す際の音と同等であり、作業中はそのような音が常に鳴り続けるとなれば近隣から苦情が発生しかねません。
そのため、ドローンで点検を行う場合は必ず近隣に周知させる取り組みが求められます。
ドローン点検にかかる費用

点検業務にドローンを導入する際、機体の購入費用・人材の育成費用などの初期費用がかかります。
まず機体の購入費用です。
機体はカメラ付きドローンであれば、「約10万~30万円」程度で十分なスペックが備わっています。赤外線カメラ搭載などより高性能な機体の場合は、「100万円」程度が相場です。
次に人材の育成費用。
人材の育成費用とは、点検用ドローンの操縦を担う人員の育成にかかる費用です。
一般的なケースでは、複数の従業員がドローンスクールを受講して知識・技術を身に付けます。
点検業務を前提としたドローンスクールの受講には、1人あたり「約20〜40万円」の費用が必要です。
ドローン点検サービスの利用なら初期投資の必要なし
自社でドローンを導入するには決して安くない費用がかかります。
点検に伴う作業時間や人件費など、中長期的なコストという観点で考えると従来の手法よりもドローンの方が削減にはつながりますが、多額の初期費用をすぐには用意できない場合もあることでしょう。
その場合、ドローンによる点検サービスを実施している業者へ外部委託をするという手段もあります。
依頼のたびに料金がかかりますが、まとまった初期費用が不要なので資金に関して一時に大きな負担がかかることはありません。
点検業務の頻度と総合的なコストを照らし合わせながら、外部委託の利用も検討すると良いでしょう。
ドローンを活用した点検の今後
航空法の規制緩和や深刻化する人材不足などにより、ドローンによる点検は今後も多くの企業で導入されると予測されます。
加えて以下のように進化を続けるIT技術も、点検事業におけるドローンの普及拡大の追い風となることでしょう。
5Gで安定的にリアルタイムのデータ共有が可能に
2020年より各通信キャリアが開始した、5G(第5世代移動通信システム)。
4Gよりも高速かつ大容量のデータ伝送が可能な他、多数同時接続も可能という特徴があります。
この5Gをドローンによる建物点検にも活用しようと動き始める企業が増えており、すでに5G通信デバイス搭載のドローンによる点検サービスを提供している企業も現れています。
5G通信/エッジAI解析搭載ドローンによる自動巡視点検 – ブルーイノベーション株式会社
遠隔地でのドローン点検業務や複数現場での並行対応を可能とする通信システムとして、ドローンと合わせての活躍に期待ができます。
自立飛行が実現することで生産性のアップが期待できる
近年、ドローンに搭載されたAIを活用して自律飛行をさせながら点検作業を実施するケースも増えています。
例えば首都高技術株式会社では、2022年10月3日より橋梁点検業務にAIによる自律飛行技術を搭載したドローンを導入したと発表しました。
首都高技術がSkydioの自律飛行ドローンを導入 安全な点検業務を支援
ドローン点検において、人的ミスが起因となる墜落・衝突事故のリスクは付きものです。
自律飛行技術を搭載したドローンで点検を行えば人的ミスのリスクが下がるだけでなく、複雑な構造物の点検も効率的に行えるため生産性の向上にも期待ができます。
点検に特化したドローンの登場
空撮用ドローンでも十分なスペックを備えたドローンが多く流通していますが、大規模な施設やインフラの点検業務となれば空撮だけに留まらない機能性も求められます。
ドローンの中には高性能カメラの他、AIを活用した検知機能や画像解析技術、赤外線カメラなど様々な機能・装備を搭載した機体が登場しています。
機体によってインフラ点検用や屋内施設点検用など、特定の現場に特化したドローンが続々と開発されているのです。
開発技術の進歩により、あらゆる現場での点検作業がドローンで効率化することができる時代が近づいています。
まとめ
施設やインフラの安全な状態を保つには点検作業が欠かせませんが、従来の方法ではコストや作業員の安全性など懸念すべきポイントが数多く存在しました。
そのような課題を解決する手段として、近年注目を集めているツールがドローンです。
上空から撮影が可能なドローンは人が現場に足を踏み入れなくても現場の状況を確認できるうえに、人件費の削減にもつながるため中長期的に考えるとコストも抑えることができます。
ただし操縦ミスによる事故や天候による影響など、まだまだ克服するべき課題点が残っていることも事実です。
新たな通信サービスや高性能な機体など、進化を続けるIT技術でデメリットを払拭しながらドローンの普及がさらに拡大していくことに期待をしたいものです。