趣味目的の飛行や空撮だけでなく、今やあらゆる事業で業務活用されることが増えたドローン。
ドローンの業務活用において、代表的な分野が「建物やインフラの点検」です。
今回はドローンによる点検とは具体的にどういうものなのかを事例と共に解説しながら、メリット・デメリットもご紹介いたします。
- ドローンを活用した点検作業とは?
- ドローン点検の5事例
- ドローンを点検に活用するメリット・デメリット
- ドローン点検の費用
- ドローン点検の今後について
ドローン点検とは
ドローンの機能性は目覚ましい進化を遂げており、現在は赤外線を搭載した機体や高性能なセンサーによる精密な飛行を可能とする機体が続々と登場しています。
近年の建設業界ではドローンの優れた機能性を活かし、屋根・マンションの外壁・橋梁・発電施設の高所・道路・鉄道などあらゆる施設やインフラの点検作業に役立てています。
具体的には、通常のカメラを搭載したドローンから送られる映像を人が目視で点検する、赤外線カメラを使用して人の目では分かりにくい異常値を探すといった使い方がされています。
「インプレス総合研究所」が公表したドローンビジネス調査報告書2021によると、ドローンビジネスにおける点検作業における市場規模は年々拡大を続けていることが分かります。
2025年度には1,715億円にものぼると予測もされており、ドローンは今後の点検市場に一層浸透してくと考えられます。
ドローン点検が注目される理由
先述したドローンビジネスにおける市場規模の傾向から、点検の分野においてもドローンの注目度が高まり続けていることが伺えます。
その理由として、以下4つのポイントが挙げられます。
インフラの老朽化
一口に点検作業と言っても様々な現場で業務が行われますが、高所や狭所など危険を伴う場所もあります。
また、近年はインフラの老朽化による崩落事故が相次いで発生していることも、社会問題となっています。
従来はそのような場所でも人が入り、目視で点検を行う必要がありました。
ドローンは人よりも小さく上空を飛行することができるため、人が立ち入れない場所でも難なく点検作業を行えます。
ドローンで撮影した映像は遠隔からリアルタイムで確認することもでき、安全かつ効率的な点検が可能となるのです。
人手不足
現在、日本では少子高齢化の影響により様々な業界で人手不足が問題視されています。
建設業界の点検においても例外ではなく、危険を伴う場所での点検を行える人材が減少傾向にあるのです。
そのため1人あたりの人件費が高額となり、十分な数の人材を揃えることが難しくなっています。
ドローンであれば人が行っていた作業を代わりに実行してくれるため、少人数での作業が可能です。
点検に伴う手間はもちろん、人件費の削減にもつながります。
効率的な点検が可能
ドローンは遠隔操作や自律飛行が可能なので、作業員が現場に足を運ばなくても点検作業を進めることができます。
高所の点検で足場を組んだりといった事前準備も付与なので、作業時間の大幅な短縮も可能です。
これにより、1日の作業件数を増やすことができるという副次的なメリットも得られます。
ドローンに関する規制の緩和
航空法では、特定の区域でドローンを飛行させるにあたって国土交通大臣の許可・承認が必須とされています。
しかし2021年9月に多様な産業でのドローン活用を普及させるため、ドローンを含む無人航空機の飛行規制が一部緩和されました。
規制緩和でドローンを導入しやすくなったことも、点検分野でドローンの浸透度を高めた一因と言えます。
緩和された規制内容は、以下の2つです。
高層の構造物周辺でのドローン飛行の緩和
従来の規制では、「地表面などから150m以上の上空」を飛行する場合は国土交通大臣の許可が必要でした。
そのため、高層の構造物を点検する場合は許可申請を行わなければならず手間がかかります。
しかし、規制緩和後は、「(煙突や鉄塔などの)高層の構造物から30m以内」であれば許可不要で飛行ができるようになりました。
人口密集地や夜間の飛行の緩和
ドローンの飛行は場所だけでなく、時間帯や飛行方法に関する規制も設けられています。
しかし航空法で規制されている人口密集地や夜間での飛行などに関しては、特定の条件を満たすことで許可申請なしで実施できるようになっています。
これにより、面倒な許可申請の手間を省きつつ安全なドローン点検の実施が可能となりました。
係留装置を使用した場合の飛行の緩和
2021年9月24日に行われた航空法施行規則の改正に伴い、先述した人口密集地・夜間飛行を含む以下の飛行場所・飛行方法に関しては、係留装置を使うことで許可が不要となりました。
- 人口密集地上空の飛行
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 第三者から30m以内の飛行
- 物件投下
具体的には、「十分な強度を有する紐等(30m以下)」で係留すること、飛行可能な範囲内への第三者の立入管理措置を講じることで上記が許可不要になります。
ドローンは飛行中に強風や機体の不具合などで制御不能となり、建物との衝突・墜落に伴う大きな事故につながるリスクがあります。
しかしワイヤーなど十分な強度の紐で係留すれば、マンションや橋梁など高さのある構造物の点検時でもそのようなリスクを抑えることが可能です。
また、飛行できる範囲も制限されるため、定められた飛行範囲から逸脱する心配もありません。
ドローン点検の事例
ドローンを活用した点検の具体例としては、以下のような方法があります。
- 道路・橋・地下などのインフラ点検
- 高所の屋根や外壁などの点検
- ガス施設や事故現場などの危険な場所の点検
- 風力やソーラーなどの発電施設の点検
- 工業プラントでの点検
- 下水道での点検
- 大型クレーンなど大型の構造物の点検
以下より、各ケースの詳細を解説いたします。
道路・橋・地下などのインフラ点検
道路局では、道路や橋梁などの定期点検において平成31年2月よりドローンの活用を開始しました。
従来は作業の度に通行規制を実施したうえで、橋梁の場合は橋梁点検車を使い目視点検を行っていました。
ドローンの活用により橋梁点検車や通行規制が不要となり、道路利用者の利便性を妨げないだけでなく点検コストの削減にも寄与しています。
また、鉄道では東京メトロが地下鉄トンネルの立坑等における点検にドローンを活用しています。
トンネル内は作業空間が狭く 足場の設置スペース確保が困難なため、従来の方法では準備に手間取り作業時間が常にひっ迫している状況にありました。
この状況を改善するべく、東京メトロは自動飛行やデータ伝送機能などを搭載したドローンを導入。
徒歩による点検で高所にひび割れなどを疑う箇所を発見した場合、足場を組まずその場でドローンを使い確認するといった活用がされています。
高所の屋根や外壁などの点検
屋根や外壁といった点検業務でも、ドローンを活用する建設系企業が増えています。
例えば外壁・屋根塗装や屋根修理といったリフォーム事業を手掛ける企業では、ドローンによる屋根・外装点検サービスを実施しています。
従来の方法では45分以上は要する高所の作業でも、ドローンの活用により10分程度までの短縮が可能としています。
また、作業員が高所に登ることはないため、作業員・屋根のどちらの安全も確保することが可能です。
ガス施設や事故現場などの危険な場所の点検
ガス施設や事故現場など、人が立ち入るには高い危険性が伴う場所の点検でもドローンが活躍しています。
ある企業ではドローンを活用した石油・ガス点検サービスを展開しており、陸上や海上の石油・ガス施設の点検をドローンで代行しています。
ガスや障害物などの危険な要因に晒されても影響を受けにくいドローンであれば、安全かつ効率的な点検作業が可能な場をさらに広げることができます。
風力やソーラーなどの発電施設の点検
人々のライフラインに関わる、風力発電タービンやソーラーパネルといった設備の点検にもドローンが使われています。
風力発電タービンの場合、送電線や鉄塔のように高さがあるだけでなく人々が住まう土地から離れたエリアに位置します。
作業員が点検のためにタービンへ登る必要があり、作業には決して低くないリスクが伴います。
以下の動画は海外の企業によるものですが、ドローンで風力発電タービンのメンテナンスを実施している事例です。
陸上・海上問わずリスクを最小限に抑えながらの点検を可能としています。
工業プラントでの点検
総務省消防庁・厚生労働省・経済産業省による「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」より、石油精製や化学工業におけるプラント点検のドローン活用事例が公表されています。
化学工業では旭化成株式会社、石油精製では大阪国際石油精製株式会社などがプラント点検でドローンの活用実績を残しています。
そして、多くの企業がメリットとして「コストダウン」や「災害緊急時の迅速な状況把握」といったポイントをメリットに挙げていました。
一方で、危険物を扱う設備に近づけず点検に必要な画像が撮影できない、機体落下時の安全性確保といった課題点も挙げられています。
徹底したリスク対策と機体の性能という面ではまだ伸びしろがある分野ですが、今後もドローンを導入する企業は増えていくことと思われます。
下水道での点検
各種インフラの老朽化が進んでいる日本において、耐用年数を過ぎる下水道の増加も懸念されています。
その際に各地の下水道を効率的に点検できる手段として、ドローンへの注目が集まっています。
従来、下水道ではテレビカメラを使ったスクリーニング検査により大まかな損傷を特定したうえで、さらに詳細な調査を行うという方法が用いられていました。
しかしこの方法では人が下水道に立ち入る必要があり、全国各地の地下に張り巡らされた下水道のひとつひとつを点検するには膨大な時間と人件費を要します。
また、人力による下水道点検は、有毒ガス・予期せぬ増水・転落といった事故のリスクも伴う危険な作業です。
ドローンなら、人が立ち入れないような狭い下水道管の中や有毒ガスなどで危険な場所の点検も容易に行えます。
さらに狭い場所や複雑な場所でも移動速度が落ちないため、大幅な作業時間の短縮により、短期間で広範囲の下水道点検を実施できます。
大型クレーンの点検
近年は、インフラや建物だけでなく大型クレーンなどの点検でもドローンの有用性が見出されています。
クレーンを点検する場合はブームを地上に伏せた状態で作業に着手する必要があり、大型機種なら相応の作業時間を要する他、十分なスペースも確保しなければなりません。
また、高所作業が多いため作業員に危険が伴うこと、作業に必要な重機・仮設物の準備に手間とコストがかかることも問題視されていました。
上空を飛行しながらの撮影が可能なドローンなら、大型クレーンでも稼働状態のまま点検できるため、コストや作業時間の短縮につながります。
作業員の危険も伴わないため、安全性を保ちながらも作業効率の向上を実現できます。
ドローンを点検に活用するメリット
あらゆる業界において点検作業に活用されているドローン。
ドローンを点検に活用することで、以下のようなメリットが得られます。
- 高所や危険な場所でも安全に点検できる
- 短時間で点検できる
- 少人数で点検できる
- AIと映像解析で効率的な点検ができる
- 映像をリアルタイムに配信することができる
- コストを抑えられる
- 高精度の点検が可能になる
以下より、各メリットの詳細を解説いたします。
高所や危険な場所でも安全に点検できる
ドローン点検における最大のメリットは、安全性を確保しながらの作業が可能なことです。
高所や狭所、危険物を扱う施設などは専用の点検車や足場を使って作業員自らが点検を行うため、少なからず落下・ケガといったリスクが伴います。
ドローンであれば、従来は人が行っていた点検のほとんどを任せることができます。
作業員は安全な地上から機体を操作するだけで良いため、事故の未然防止につながります。
自律飛行に対応した機体を活用すれば、作業員の操縦ミスによる墜落やロストの危険性も回避することが可能です。
短時間で点検できる
人が行う点検作業では、足場や橋梁点検車などを用意するといった安全確保のための準備が欠かせません。
先述の通り、ドローンは地上から機体を操作すれば点検作業が行えるため準備の時間を大幅に短縮することができます。
また、ドローンは上空から広範囲の撮影が可能なので、作業員自らが足を運ぶよりも効率的に点検作業が進みます。
少人数で点検できる
高所や橋梁を点検するにあたって足場・橋梁点検車を用意する場合、技術者だけでなく足場を組む作業員や車両を運転するドライバー、交通整理を行う人員などが必要です。
例えば下記の橋梁点検業務に関する報告によると、橋梁点検車を用いた点検では運転手1名・オペレーター1名・点検車2名・安全管理者1名・交通誘導員3名で合計8名の人員で行われていました。
点検支援技術を活用した橋梁点検業務 業務におけるBIM/CIM活用事例について
一方、ドローンによる点検ではドローン操縦者1名・GPS管理者1名・撮影管理者1名・安全管理者1名の合計4名に抑えられたという実績が残っています。
AIと映像解析で効率的な点検ができる
ドローン高性能カメラが搭載されている他、AIや映像解析と組み合わせて活用することも可能です。
例えばドローンで撮影・データ化した画像や映像をAIで解析し、効率的な点検・修理計画を立てることができます。
データを蓄積していけば、それをもとにした経年変化の調査や管理も可能です。
機体によって得意な分野は異なるため、実際に活用したい現場に適したドローンを導入すれば高精度かつ高効率な点検作業を実現できることでしょう。
映像をリアルタイムに配信することができる
ドローンで撮影中の映像はデバイスに伝送されるため、操縦中もリアルタイムで現場の状況を確認することができます。
ドローンのカメラで広範囲に撮影しながら、その状況を作業員だけでなく専門家やクライアントと一緒に確認できるため効率良く点検作業が進みます。
コストを抑えられる
先述した「少人数で点検できる」というメリットは、コストの削減にもつながります。
現場の点検に際して足場を組んだり点検車を用意したりといった作業には、人員だけでなく人件費も必要です。
ドローンによる点検なら少ない人員で作業が進むため、そのぶんの人件費も削減可能です。
機体の導入による初期コストはかかりますが、中長期的な目線で考えると従来の方法よりも綜合的なコストは抑えることができます。
高精度の点検が可能になる
小型かつ飛行が可能なドローンは人の足では近づくことが難しい対象物にも、簡単に接近できます。
さらにドローンへの積載に対応した高性能カメラも多く開発されており、場所や範囲を問わず高精度な映像・画像を撮影しながらの点検が可能です。
単純に高画質なカメラだけでなく、赤外線カメラや光学ズームカメラなど、一般的なカメラでは撮影が難しい対象物の撮影も可能とする機種も装備できます。
AIや画像処理技術と併用すれば、目視では見えにくい損傷や異常も簡単に特定できます。
ドローンを点検に活用するデメリット
ドローンによる点検は様々なメリットがある一方で、以下のようなデメリットが現状の課題として残っています。
- 打診診断や触診はできない
- 墜落や事故の可能性がある
- 悪天候の影響を受ける
- 騒音問題に発展する可能性がある
- 長時間の点検作業はできない
- ドローンを飛ばせない場所がある
どのようなデメリットなのか、以下より詳しく解説いたします。
打診診断や触診はできない
ドローンによる点検はあくまでカメラやセンサーを介した目視点検となるため、人が直接触れて確認することができません。
従来の外壁点検では、テストハンマーなど専門の道具を使って壁を叩いて音を聞き、その音から異常を判断するという「打診調査」が行われていました。
しかしドローンでは打診調査が不可能なため、音により判明する異常まではカバーできません。
また、外壁材と接着剤の剥離といった触診・目視で判断できる異常も検知できないという弱みもあります。
墜落や事故の可能性がある
プロが操縦するドローンを見ていると簡単に安定した飛行ができると思ってしまいがちですが、実際は高度な操縦スキルが求められます。
飛行中は常に機体の墜落や衝突事故などのリスクと隣合わせとなっているため、事故防止対策を徹底しなければなりません。
近年は多くのドローンスクールでドローンの業務活用を前提とした講座が実施されているため、導入前に飛行技術や安全管理などの知識を十分に身に付けることが大切です。
悪天候の影響を受ける
屋外でドローンによる点検を行う場合、その日の天候に注意が必要です。
ドローンにとって雨や風は大敵で、熟練の操縦者でも安全に飛行させることが難しくなります。
また、ドローンは精密機器なので防水機能が備わっていない限り雨の日に点検を行うと故障する恐れがあります。
国土交通省が公表しているドローンの飛行マニュアルでは、「地表から1.5m程度の上空で風速が5m/s以上ある場合は飛行をしないこと」と記されています。
この風速は、飛行許可申請の際に国土交通省の飛行マニュアルを使った場合に守るべき数値です。
一般的に5m/s以上の風速でドローンを飛行させると墜落のリスクが格段に高まるため、飛行を控える必要があります。
騒音問題に発展する可能性がある
ドローンはどの機体もプロペラの羽音がするため、近隣の住民に不快感を与える恐れがあります。
音の大きさは機体によって異なりますが、業務活用されることが多い「Phantom4 Pro」の場合は室内で約80dbの音が生じます。
数値としては水洗トイレを流す際の音と同等であり、作業中はそのような音が常に鳴り続けるとなれば近隣から苦情が発生しかねません。
そのため、ドローンで点検を行う場合は必ず近隣に周知させる取り組みが求められます。
長時間の点検作業はできない
ドローンはバッテリーからの電力供給で作動するため、飛行可能な時間には限りがあります。
具体的な飛行可能時間は機種によって異なりますが、点検に用いられる産業用ドローンの多くは30分~50分程度の飛行が限界です。
一般的なホビー用ドローンの飛行可能時間が5分~30分程度であることを考えると長時間に思えますが、広範囲・大規模な対象物の点検を行うとなれば、時間が足りない可能性があります。
そのため、点検を行う環境に合わせて所要時間の計算や必要な予備バッテリーの用意、充電環境を整えるといった準備が必要です。
ドローンを飛ばせない場所がある
近年は法整備が進みドローンの飛行範囲に関する規制が緩和されたとはいえ、依然として無許可での飛行ができない場所は残っています。
また、航空法では原則として、「緊急用務空域」に指定された場所でのドローンの飛行を禁止しています。
災害など有事の際に一部の空域が緊急用務空域に指定されることがあり、該当空域では指定が解除・変更されるまで一般的なドローンの飛行ができなくなります。
緊急用務空域でドローンの飛行ができるのは、基本的に都道府県警察の他、国・地方公共団体またはこれらの者の依頼により捜索・救助を行う者のみです。
ただし、インフラ点検・保守を目的としたドローンの飛行でも、指定の解除・変更を待たずして実施できることが真に必要と認められた場合のみ、飛行許可申請により飛行できます。
航空法以外にも、小型無人機等飛行禁止法・道路交通法・各自治体の条例など、ドローンの飛行の可否に関わる法律は複数あります。
各法令をよく確認のうえ、必要に応じて関係機関や管理者に許可を得るという事前準備も必須です。
ドローン点検にかかる費用
点検業務にドローンを導入する際、機体の購入費用・人材の育成費用などの初期費用がかかります。
機体費用
まず機体の購入費用です。
機体はカメラ付きドローンであれば、「約10万~30万円」程度で十分なスペックが備わっています。赤外線カメラ搭載などより高性能な機体の場合は、「100万円」程度が相場です。
人材の育成費用
次に人材の育成費用。
人材の育成費用とは、点検用ドローンの操縦を担う人員の育成にかかる費用です。
一般的なケースでは、複数の従業員がドローンスクールを受講して知識・技術を身に付けます。
点検業務を前提としたドローンスクールの受講には、1人あたり「約20〜40万円」の費用が必要です。
点検・修理費用
飛行中の故障や不具合を防ぐためにも、機体の定期的な点検費用や故障時の修理費用も必要な出費です。
ホビー用ドローンよりも構造が複雑な点検用(産業用)ドローンの場合、プロによるメンテナンスサービスで機体を維持するケースが一般的です。
多くのドローンメーカーや販売代理店は定期メンテナンスサービスを提供しており、料金相場としては「5,000円~3万円」程度かかります。
修理費用は故障した箇所によって変わり、「1,000円~数万円」程度と幅が広いです。
修理作業に加えて故障箇所を特定するための作業も行うため、上述した点検費用+修理費用+パーツ代が実際の料金となる場合があります。
保険料
点検業務でドローンを活用するにあたって、十分な安全管理を講じても機体の墜落や衝突による事故の可能性を完全に回避することはできません。
場合によっては、第三者にけがをさせたり第三者が管理する物件に破損させたりして、多額の損害賠償を求められる恐れもあります。
そのリスクに備えて利用すべきものが、ドローン保険です。
ドローン保険には第三者に損害を与えた際に補償してくれる「賠償責任保険」、自機の破損や盗難の発生時に補償してくれる「機体保険」があります。
保険料は保険会社・補償範囲・個人向けか法人向けかなどによって変わるため、ドローンの使用条件に適したものを選びましょう。
外部委託なら初期費用なし
自社でドローンを導入するには決して安くない費用がかかります。
点検に伴う作業時間や人件費など、中長期的なコストという観点で考えると従来の手法よりもドローンの方が削減にはつながりますが、多額の初期費用をすぐには用意できない場合もあることでしょう。
その場合、ドローンによる点検サービスを実施している業者へ外部委託をするという手段もあります。
依頼のたびに料金がかかりますが、まとまった初期費用が不要なので資金に関して一時に大きな負担がかかることはありません。
点検業務の頻度と総合的なコストを照らし合わせながら、外部委託の利用も検討すると良いでしょう。
なお、ドローン点検における外注費用の相場は用途によって変わります。
主な用途ごとの外注費用の相場は、以下の通りです。
用途 | 費用 |
---|---|
外壁点検 | 1000㎡あたり30万円~ |
屋根点検 | 5万円~ |
橋梁点検 | 1日あたり60万円~ |
太陽光発電所点検 | 1MWあたり10万円~ |
風力発電所点検 | 1機あたり30万円〜 |
ダム点検 | 120万円~ |
ドローン点検で使用される主なドローン
産業用ドローンにも様々な機種があり、それぞれに搭載されている機能は異なります。
以下より、点検業務への活用に適している産業用ドローン機種3つの特徴をご紹介いたします。
自律飛行機能搭載の「Skydio2+」
米国のドローンメーカーであるSkydioが開発したSkydio2+は、AIにより自律飛行技術や障害物回避技術を搭載したハイエンドドローンです。
従来のドローンのように回避すべき物体をその都度検知するのではなく、本体に搭載されたナビゲーションカメラで周囲の3Dマップをリアルタイムで作成し、AI機能と併用することでより安全性の高い飛行を可能としています。
229×274×126mmとコンパクトな機体でありながら、4K動画・1200万画素の画像撮影や最大27分間の飛行が可能です。
狭所空間点検専用小型ドローン「IBIS2」
LiberawareがJapan Drone 2023にて発表したドローン、IBIS2はまるで手のひらに乗るほどのコンパクトさが特徴の点検用ドローンです。
重量は243gと非常に軽い一方で、柔軟なポリカーボネート素材ボディで施設や機体の損傷リスクを抑えています。
独自の防塵構造モータや飛行制御システムにより、狭所や粉塵・水滴環境下での安定した飛行が可能です。
さらに通信距離を延長するエクステンションアンテナにより、通信環境が悪い場所でも飛行できます。
優れたセキュリティ性能を備えた「ACSL PF2-AE Inspection」
国内大手の産業用ドローンメーカー、ACSL製のPF2-AE Inspectionは「SOTEN(蒼天)」の開発によるノウハウを活かして高レベルなセキュリティ性能を実現した点検用ドローンです。
ソースコードレベルから独自開発したフライトコントローラーを搭載しており、通信を暗号化して情報漏洩のリスクを抑えています。
飛行性能に関しては機体には水平方向360°に対応した衝突回避機能を備えており、複雑な地形でも安全な飛行が可能です。
標準送信機1台とACSL製のリモートIDモジュールが標準搭載されているため、導入に伴うドローンの機体登録制度にも対応しやすくなっています。
ドローン点検の普及を推進するテクノロジー
航空法の規制緩和や深刻化する人材不足などにより、ドローンによる点検は今後も多くの企業で導入されると予測されます。
加えて以下のように進化を続けるIT技術も、点検事業におけるドローンの普及拡大の追い風となることでしょう。
また、すでにドローンと併せて点検業務に活用されているIT技術は複数あります。
ドローン点検において活用されている・活用が期待されている技術は、以下の通りです。
- 5G通信によるリアルタイムなデータ共有や連携
- クラウド技術でデータを効率的に管理
- 自律飛行ドローンによる生産性の向上
- AIを活用した効率的な画像診断
- RKT測位による高精度の飛行を実現
- 点検に特化したドローン
各技術の活用例を、以下よりご紹介いたします。
5G通信によるリアルタイムなデータ共有や連携を実現
2020年より各通信キャリアが開始した、5G(第5世代移動通信システム)。
4Gよりも高速かつ大容量のデータ伝送が可能な他、多数同時接続も可能という特徴があります。
この5Gをドローンによる建物点検にも活用しようと動き始める企業が増えており、すでに5G通信デバイス搭載のドローンによる点検サービスを提供している企業も現れています。
5G通信/エッジAI解析搭載ドローンによる自動巡視点検 – ブルーイノベーション株式会社
遠隔地でのドローン点検業務や複数現場での並行対応を可能とする通信システムとして、ドローンと合わせての活躍に期待ができます。
クラウド技術でデータを効率的に管理
インフラ設備などの点検業務においては、クラウドサービスも有用です。
ドローンが撮影した画像を即時クラウドに送信することで、現場の担当者はもちろん本部の技術者など離れた場所にいる関係者にもリアルタイムに情報を共有できます。
例えば株式会社日立システムズは、ドローンの操縦から撮影した画像の加工・診断、データの保管、業務システムとのデータ連携まで可能な、点検作業向けのクラウドサービスを提供していました。(2023年3月末サービス終了)
AIによる損傷箇所の抽出技術を併用し、ドローンで撮影した2次元画像から構造物全体の3次元モデルをクラウド上で生成することが可能です。
ドローンによる構造物の点検作業向けのクラウドサービスを強化|日立システムズ
また、クラウド特有のメリットとして、万が一作業中にドローンが故障しても画像・映像データはクラウド上に残ります。
重要なデータの紛失リスクを抑えられるという点でも、ドローン点検とクラウド技術は相性が良いといえます。
自律飛行ドローンによる生産性の向上近年、ドローンに搭載されたAIを活用して自律飛行をさせながら点検作業を実施するケースも増えています。
例えば首都高技術株式会社では、2022年10月3日より橋梁点検業務にAIによる自律飛行技術を搭載したドローンを導入したと発表しました。
首都高技術がSkydioの自律飛行ドローンを導入 安全な点検業務を支援
ドローン点検において、人的ミスが起因となる墜落・衝突事故のリスクは付きものです。
自律飛行技術を搭載したドローンで点検を行えば人的ミスのリスクが下がるだけでなく、複雑な構造物の点検も効率的に行えるため生産性の向上にも期待ができます。
AIを活用した効率的な画像診断
先述したように、AIによる画像診断が可能な点はドローン点検ならではのメリットです。
従来の方法では、1度の点検作業に撮影される膨大な画像データを逐一目視しなければならず、点検結果が出るまでに時間がかかります。
AIなら、蓄積されたデータに基づき膨大な画像データも瞬時に診断することが可能です。
これにより、点検後の診断における効率も大幅に向上します。
とはいえ、AIは最初から制度の高い画像診断ができるわけではありません。
診断の精度を上げるには、相応に質の高い学習元データが必要になります。
現状としてすべての点検業務でAI画像診断に任せきりとするには難しいため、今後のAI技術のさらなる発展に期待したいところです。
RTK測位による高精度の飛行を実現
RTKとはReal Time Kinematicの略で、人工衛星による高精度な測位を可能とする技術のことです。
一般的なドローンはGPS/GNSSによる測位システムで位置の補正や自動飛行を行っていますが、場合によっては数m単位でズレが生じるという難点があります。
RTK測位は複数の受信機でGPS/GNSSを受信し、互いに情報をやり取りするため情報のズレを補正します。
これにより、誤差を数cm単位に抑えて高精度な位置情報の取得が可能になるという仕組みです。
慎重な飛行が求められる複雑な地形や狭所などの点検でも安全に作業できる他、大型構造物に多い磁気干渉にも強くなります。
点検に特化したドローンの普及
空撮用ドローンでも十分なスペックを備えたドローンが多く流通していますが、大規模な施設やインフラの点検業務となれば空撮だけに留まらない機能性も求められます。
ドローンの中には高性能カメラの他、AIを活用した検知機能や画像解析技術、赤外線カメラなど様々な機能・装備を搭載した機体が登場しています。
機体によってインフラ点検用や屋内施設点検用など、特定の現場に特化したドローンが続々と開発されているのです。
開発技術の進歩により、あらゆる現場での点検作業がドローンで効率化することができる時代が近づいています。
ドローンの点検業務に関するよくある質問
最後に、ドローンの点検業務に関してよくある質問について解説いたします。
ドローンで点検をするのに資格は必要?
ドローンを使った点検業務に、特別な資格は必要ありません。
ただし、航空法で規制されているレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)を伴う点検業務の場合は、国家資格である「一等無人航空機操縦士」の取得が必要です。
また、レベル4飛行を行わなくてもドローンの国家資格を取得しておくと、安全な飛行に必要なスキルが身に付くだけでなく、一部の飛行許可申請が免除されるなどのメリットがあります。
継続的にドローン点検を実施するなら、国家資格の取得がおすすめです。
ドローンの点検業務の求人はある?
ドローンを使った点検業務の求人情報は、すでに様々な企業から公開されています。
具体的には、以下のような求人があります。
- ドローン等の最新機器を使ったインフラの点検調査
- 消防設備点検スタッフ(一部ドローン点検)
- 橋梁・道路のドローン保守点検・リサーチ
なお、多くの求人情報ではドローンの操縦経験やドローン関連の資格が必要とされている傾向にあります。
ドローンの点検業務は何人で行う?
ドローンの点検業務は、最少2名で実施することも可能です。
例えばKDDIスマートドローンでは、ドローンを用いた点検サービスの作業人数をパイロット・補助者を合わせて2名で実施可能としています。
従来の手法と比べて、大幅な人的コストを削減できることもドローンの点検業務の強みです。
まとめ
上空から撮影が可能なドローンは人が現場に足を踏み入れなくても現場の状況を確認できるうえに、人件費の削減にもつながるため中長期的に考えるとコストも抑えることができます。
ただし操縦ミスによる事故や天候による影響など、まだまだ克服するべき課題点が残っていることも事実です。
新たな通信サービスやAIなど、進化を続けるIT技術でデメリットを補いながら、点検分野におけるドローンの普及拡大に期待したいところです。
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