産業用ドローンの特徴とは?用途やメリット、必要資格の有無など解説

更新日: 2022.07.21 公開日: 2022.07.21
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単純な飛行や空撮を楽しむ際に用いられるイメージの強いドローン。

そういった趣味目的を前提にして開発されたドローンもあれば、建築や点検、農業など産業分野での活用に適した機能が搭載されている「産業用ドローン」も存在します。

今回は産業用ドローンとは何かといった基本的な知識に加え、産業分野にドローンを取り入れるメリットや操縦に必要な資格についても解説いたします。

この記事でわかること
  • 産業用ドローンとはどういったものか?
  • 活用されている分野について
  • 産業分野にドローンを取り入れるメリット・デメリット
  • 産業用ドローンを操縦する際に必要な資格

をわかりやすく解説しています。

目次

産業用ドローンとは

ドローンは200gにも満たない軽量な機体、カメラを搭載して空撮を楽しむことができる機体など、様々な種類があります。

中でも、点検・測量・農業・警備・物流など産業分野における特定の用途で使われることを前提としたドローンが「産業用ドローン」です。

単純な飛行や空撮を楽むホビー用ドローンとは異なり、飛行性能や機能が充実していることから比較的高価格で提供されていることが特徴です。

近年、ドローンはあらゆる分野における産業目的での活用に大きな期待を寄せられています。

具体的にどのような分野で活用されているのか、産業目的でドローンを活用することのメリットについては次項より詳しく解説いたします。

産業用ドローンの活用事例

産業用ドローンは、主に以下のような分野で活用されています。

メディア・撮影(空撮)分野

産業分野でも代表的な活用事例として、カメラを搭載した機体による空撮で画像や映像を撮影・制作するメディア分野が挙げられます。

テレビや映画、MVなどの制作や、クライアントから依頼された映像や写真の撮影にドローンが活用されています。

メディア・撮影分野で使われる機体は6Kの高画質カメラや飛行制御機能などが充実しているため、高額なものがほとんどです。

企業所属のクリエイターだけでなく、カメラマンとして活動していた方が撮影技法の一環としてドローンを使い始める場合もあります。

農業分野

人材不足や高齢化が問題視されている業界のひとつ、農業ではドローンが問題解決へとつながるツールとして大きな注目を集めています。

主に農薬散布に特化した機体として、農薬の積載が可能なドローンが出回っています。

将来的には、赤外線カメラなどを用いて作物の生育状況を分析するセンシング、作物に影響を及ぼす鳥獣対策へのドローン活用も期待されています。

建設分野

建設分野では、カメラ搭載ドローンを利用し建物の点検・メンテナンスに活用されています。

建設現場をドローンで撮影しながら確認することで、効率よく現場の状況を把握することが可能です。

また、ダムや下水道、鉄道、鉄塔などインフラ設備の点検にもドローンが活用されていることもあります。

作業者の安全を確保するために必要な点検業務は、ドローンを使うことで効率的かつ低コストで実施できます。

物流分野

「物資輸送」や「配達」といった物流分野も、ドローンが活躍できる分野の一つです。

機体に荷物や配達物を積載のうえ自動飛行で運搬し、作業時間の短縮や人件費の削減などの効果が期待できます。

ただし、運搬には以下の課題があるため、本格的な実装はまだ先の話となることが見込まれます。

・法律で規制対象となっている目視外飛行が必須である
・積載できる荷物の重量に限りがある など

とはいえ、近年は様々な企業がドローンを活用した配達・物資輸送の実証実験を行っていることは事実です。

物流分野におけるドローン実装の今後については、随時動向を追っていく価値が大いにあります。

各分野で産業用ドローンを取り入れるメリット

産業用ドローンを取り入れると、どのようなメリットを得ることができるのでしょうか。

ここでは、上記でご紹介した分野別で産業用ドローンのメリットについて解説していきます。

メディア・撮影(空撮)分野で産業ドローンを取り入れるメリット

1.有人ヘリと比較すると低価格で撮影が可能

従来の空撮は有人ヘリコプターを使用して行われていました。

しかし、ヘリコプターによる空撮は燃料費やパイロット・補助者にかかる人件費が必要とされるため、実施にかかるコストは決して低いものではありません。

一方、ドローンはヘリコプターと比較して非常にリーズナブルな価格で購入できる他、導入後に必要となるのはバッテリーの交換費用のみです。

操縦方法を身に付ければ自分や従業員自らが撮影に臨めるため、人件費も最小限に抑えることができます。

2.普段見ることのできない視点での撮影が可能になる

ドローンで撮影された写真や映像は、何といってもダイナミックな構図が特徴的です。

どのような被写体でも空中から近づいて撮影することで、地上から撮影した写真や映像を圧倒するほどの臨場感あふれる作品が生まれます。

3.被写体に追従できるなどカメラワークの自由度が高い

ドローンの中には、自動で対象を追尾する「自動追尾機能」を搭載している機体もあります。

バイクに乗っている人や走っている人の斜め後方上空を自動的に飛行し続け、俯瞰した視点で映像を撮影することができます。

ツーリング中の様子など人間では難しい撮影も、ドローンは容易に叶えてくれるのです。

活用方法しだいでは生み出せる作品の幅がぐっと広がるツール、それがドローンと言えます。

4.低空域でもダイナミックな撮影が可能

上空だけでなく、低空や狭い場所など人の手では難しいアングルの撮影も可能です。

道路上や海・河川の上など人間が踏み入るには難しい場所を低空飛行することで、まるでその場にいるような映像を撮影することができます。

農業分野

1.作業の短時間化

農業分野でのドローン活用における最大のメリットは、「農薬散布の作業時間短縮」です。

機体により詳細な性能は異なりますが、ドローンは1分あたり約10aのペースで農薬を散布することができます。

機体の持ち運びや展開、飛行開始といった準備も一人で完結するため、作業時間の大幅な短縮につながります。

2.体力的な負担の軽減

人力に比べて効率よく作業を行えることはもちろん、ドローンは遠隔操作ができるため作業者にかかる体力的な負担がかからなくなります。

特に高齢な方は夏場の厳しい気温の中でも自ら動噴機械を背負って農薬を散布することは困難とする声も多くあります。

高齢化の進む農業界において、この点は大きなメリットと言えます。

また、作業者が農薬に触れるリスクも減るため、健康面での安全性も高いです。

3.重機では難しい作業もラクに対応できる

ドローンはサイズが小さく小回りも効くため、産業用ヘリのような重機では入ることが難しい地形や規模の小さな圃場における作業も対応できます。

自動飛行制御機能が搭載されているドローンを使えば直接操作を行う必要がないので、よりラクに作業を済ませることが可能です。

建設分野

1.人が立ち入ることが困難な場面でも安全に点検作業ができる

遠隔操作が可能なドローンは、人が立ち入ることが困難な高所に加えて地下水路や煙突など危険な場所の点検も容易になります。

施設や設備の高所を点検する場合、従来は組み立てた足場から作業員が直接点検作業を行う方法が一般的でした。

常に危険と隣り合わせな環境で点検を行う必要があり、大きな課題点とされていたのです。

しかしドローンを使えば、人が直接に出向かなくても搭載したカメラで現場の状況を確認できるため、作業員の安全を確保できます。

また、点検に用いられるドローンはほとんどの場合、自動操縦機能が付いているため、操作ミスによる事故が発生するリスクも低いです。

2.コスト削減につながる

人が目視で行う従来の点検作業は点検車を使用したり、現場に足場を組み立てて準備したりなど作業工程が多い分人件費がかさみます。

ドローンによる点検の場合、人による点検作業と比べて必要な作業工程が減るため人件費を削減することができ、結果的にコストを抑えることにつながります。

3.工事の進捗状況に対して柔軟に対応することができる

ドローンは建設現場を撮影し、工事の進捗状況を確認する「施工管理」にも役立ちます。

どのような場所でも、容易かつ低コストでいつでも全景の写真を撮影することができるため、万が一安全面のリスクや施工ミスがあった場合でも早期の対処が可能です。

大規模な現場など、人の手で全体管理が難しい現場であればなおのこと、ドローンは効果を発揮します。

物流分野

1.輸送時間の短縮

道路を走行して荷物を輸送する自動車やバイクは、渋滞などが発生すると輸送時間が長引いてしまうことがデメリットとして挙げられます。

一方、上空を飛ぶドローンは、その日の交通状況に左右されることがありません。

自動飛行機能や障害物回避機能などを活用すれば、障害となり得る建物や鉄塔などと衝突することもなくスムーズに輸送することが可能です。

2.配達人員の削減

近年、運送業界では配達員の人手不足が問題視されています。

ドローンであれば、あらかじめインプットさせた目的地まで自動的に飛行して荷物を輸送するため、配達員が不要となり人手不足の問題解決に繋がります。

逆に、コスト対策のために人件費を削減したい運送業者にとってもメリットと言えるポイントです。

3.空路を使った宅配の中でもコストが低い

遠方の目的地まで空路を使って輸送しなければならない場合、現時点では飛行機やヘリコプターなどに荷物を積載して移動する方法が一般的です。

しかし、このような有人の航空機はコストがかかるため、小さなものやロット数の少ない物資の輸送には不向きです。

一方、ドローンは遠方でも有人航空機と比較して低コストで運用できます。

機体に積載できる程度の荷物であれば、遠方までの輸送に活躍が期待できます。

4.過疎地などへの宅配も可能

車両では移動に時間がかかる山間部や船舶を使わなければならない離島部などの過疎地にも、ドローンを活用することで輸送が容易になります。

過疎地の高齢化が進む中、高齢者の方が自ら買い物ができる店舗へ足を運ぶのは困難な場合が多いです。

そこで、近年は様々な企業が医薬品や日用品などをドローン輸送で届ける実証実験を行っています。

過疎地だけでなく、災害が発生した際は外部の人が踏み入りにくい被災地への物資輸送にも活躍が期待できます。

産業用ドローンを操作する場合、資格や免許は必要?

ドローンの操縦というと、自動車やバイクのように操縦免許が必要なイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

ここでは、実際に業務でドローンを使う場合に取得必須な資格や免許について解説いたします。

操作に対する資格・免許は不要

2021年12月現在の法律では、ドローンを操縦するにあたって取得が必須とされている資格や免許は存在しません。

ただし2022年に施行が予定されている改正航空法では、レベル4(有人地帯での目視外飛行)の飛行を実施する場合に、国家資格の取得が必要となる「ライセンス制度」が導入される見込みです。

点検作業や物資輸送などのドローンを活用した業務ではレベル4に該当する飛行方法の実施が必要になる可能性が高いです。

その場合はライセンス制度導入後に新設される国家資格の取得が必要になることでしょう。

レベル4以外の飛行方法を実施する場合に関しては、従来通り法規制を遵守していれば無資格・無免許の方でもドローンを操縦することは可能です。

正しい法規制や基礎的な操縦技術を身につけるなら認定資格取得がおすすめ

なお、民間団体が管理しているドローン関連の認定資格(民間資格)は存在します。

民間資格は団体が運営しているスクールを受講すれば資格を取得できるという流れが一般的です。

操縦士として必要なドローンの機体や法規制といった知識、基礎的な操縦技術が身に付くため取得を目指して損はありません。

建設・農業分野においては、操作以外の部分で専門資格が必要になることも

ドローンの操縦に必要な資格や免許はなくても、特定の分野で業務を行う場合に専門資格の取得が必要となるケースもあります。

建設分野の場合

建設分野においては、ドローンを測量業務に使う場合「測量士」または「測量士補」の資格が必要となります。

どちらも国家資格となっており、文部科学大臣の認定学校を卒業したり国家試験に合格したりすることで取得が可能です。

農業分野の場合

また、ドローンを使って農薬散布を行う場合にも資格の取得が必要です。

農業用のドローンには、「農林水産航空協会(農水協)」により性能が安全基準を満たしていると認定された機体が存在します。

この認定機を操縦するには、農水協の認定スクールを受講の上資格を取得しなければなりません。

DJI社製の農業用ドローンを使う場合には、「UTC農業ドローン協議会」認定のスクールで資格を取得する必要があります。

産業用ドローンの価格目安

産業用ドローンを導入するうえで、購入価格は特に気になるポイントと言えます。

おおよそどれくらいの価格で産業用ドローンは購入することができるのでしょうか。

10万円前後~300万円前後が基本

一口に産業用ドローンと言っても、空撮用や測量用、農薬散布用など様々な種類があります。

用途や機体性能により価格は変動しますが、産業用という括りに入るドローンの価格は「10万円~300万円」程度が相場です。

ここで、分野ごとに機体の販売価格の一例をご紹介いたします。

●空撮・測量用

・DJI Mavic 3:約23万円~
・DJI Phantom4 Pro:約20万円~
・ALIGN M690L:約13万円~

●測量用

・TEAD Silky EX:約135万円~

●農薬散布用

・MAZEX 飛助MG/DX 21年モデル:約92万円~
・東京ドローンプラス ヘリオスアグリ5:約71万円~
・ヤマハ発動機 YMR-08:約173万円~

●点検用

・VFR ACSL-PF2:約345万円~

建設・農業に使用するドローンは100万円以上が一般的

上記でご紹介した通り、空撮に適した機体は10万円~20万円台の価格となっている一方で、測量や点検、農薬散布向けドローンは100万円を超えるモデルも多いです。

ただ飛行や撮影を行うだけでなく、特定の業務を行う上で必要となる特殊な機能を搭載していることから比較的価格が高くなる傾向にあります。

産業用ドローンをレンタルすることは可能?

ドローンはレンタルサービスからレンタルすることも可能です。

サービスによってレンタル可能な機体は異なりますが、産業用ドローンを用意している場合もあります。

低コストで業務に産業用ドローンを使いたい、気になる機体を購入前に試してみたい…と考えている方は、レンタルもおすすめです。

産業用として注目を集めるドローン3種

産業用ドローンは様々な種類がありますが、中でも特に注目を集めている機体3種類をご紹介いたします。

1.DJI「AGRAS MG-1P RTK」

1.DJI「AGRAS MG-1P RTK」
Photo by dji

DJI製の農薬散布用ドローンシリーズ「MG-1」がさらなるアップデートを遂げたモデルです。

最大5機までの操縦が可能、高精度レーダーによる優れた障害物検知・自動地形認識能力などの高い機能性が特徴と言えます。

10kgと比較的軽量なモデルなので持ち運びがしやすく、散布対象の圃場へ移動する回数が多い場合におすすめです。

2.DJI「MATRICE 300 RTK」

2.DJI「MATRICE 300 RTK」
Photo by dji

上記と同様、DJI製の産業用ドローンです。

高性能センサーによる障害物検知性能、マルチセンサーカメラとの連動性など産業用ドローンとして求められる性能が充実しています。

その優れた性能により、点検や人命救助、捜索救助活動など様々な場面で活躍する機体です。

3.ALPSALPINE社「架空地線の自動追尾点検技術の試験導入ドローン」

3.ALPSALPINE社「架空地線の自動追尾点検技術の試験導入ドローン」
Photo by built

ALPSALPINE社が関西電力、東芝デジタルソリューションズと共同発表したドローンで、2019年4月に開催された「第5回 国際ドローン展」にも出品されました。

ALPSALPINE社が持つセンシング技術と機体制御技術を組み合わせることで、対象物を正確に補足・高解像度な映像での撮影が可能となっています。

同機体を用いて「ドローンによる架空地線の自動追尾点検技術の試験」が行われており、将来的には関西電力の架空地線点検業務へ本格導入されることが見込まれています。

まとめ

空撮だけでなく、建設や農業、物流など様々な分野において活躍を期待されている産業用ドローン。

低コストかつ作業の効率化に効果をもたらすドローンは、今後も様々な業界に導入されると考えられます。

ドローンの操縦に必要な免許は原則ありませんが、特殊な飛行方法や業務の種類によっては資格が求められる場合もあるため注意しましょう。

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