橋梁の安全な状態を保つためには定期的な橋梁点検が欠かせませんが、高所作業が必須であることから、作業員の安全面やコストなどが懸念されます。
その懸念点を解消し得るものが、点検用ドローンです。
今回はドローンを使った橋梁点検の方法やドローンを使うメリット・デメリット、橋梁点検の際に使われる新しい技術などについて解説いたします。
橋梁点検とは?
橋梁点検とは、河川・渓谷・海を通って対岸へ渡るための道路・鉄道が作られている橋を点検する作業のことです。
道路維持管理業務の一環として、橋の耐荷力・耐久性に影響すると思われる損傷や、第三者に被害を及ぼす可能性のある損傷を早期に発見・対処し、常に橋梁の良好な状態を保つために行われます。
また、効率的な維持管理を実現するために必要な基礎データを蓄積し、今後の補修・補強へ活かすことも橋梁点検における大きな目的のひとつです。
橋梁点検が抱える現状の課題
日本には2m以上の道路橋が約72万もの場所にあり、そのうち45万箇所の橋梁は自治体に管理が委ねられています。
作業を手配する手間もコストも、自治体が負担しなければなりません。
橋梁点検は、主に橋梁点検車という特殊車両で足場を作り、そこに作業員が乗って目視で作業を進めるという方法で行われています。
作業の間は一般車両が近づかないように交通規制をする必要があるため、準備に時間がかかることが難点です。
また、橋梁点検車が使えない場所では、命綱を装着した作業員が橋梁の下に入って点検します。
上記の通り、従来の方法は効率面や安全面に欠けていることが分かります。
年々深刻化する人手不足も相まって、このままでは点検が必要な橋梁のすべてに対応できない恐れがあるため、橋梁点検の効率化が急務とされているのです。
ドローンで橋梁点検をする方法
橋梁点検の効率化には、ドローンの活用が有効です。
ここでは、ドローンを使った橋梁点検の流れについて解説いたします。
点検準備
従来の橋梁点検では、事前準備として関係者協議・交通規制・橋梁点検車の準備が必要でした。
鉄道・河川・警察など各関係者機関との協議を経て、橋梁点検車を用いるための交通規制と車両を準備して、ようやく現地での作業を開始できます。
主に橋梁点検車を使うために必要な準備に、手間や時間がかかっていました。
ドローンによる橋梁点検なら、必要な準備は関係者協議のみです。
現地での作業
準備が完了したら、現地でドローンを飛行させながら、離れた場所でモニターを通して橋梁の状態を確認します。
現状、ドローンで確認できる橋梁の異常は目視で確認できるもののみです。
主にひび割れや部材の浮きなどがないか、判断します。
ドローンによる空撮と分析で異常が発生している箇所を特定し、より詳細な点検が必要と判断された場合は、その箇所のみ作業員が直接チェックします。
点検後の作業
橋梁の健全性を診断するために役立つ、点検展開図を作成します。
従来の橋梁点検では現地にて点検後に作成する必要がありましたが、ドローンなら点検後に撮影した画像や映像のデータから橋梁の状態を分析し、点検展開図を作成することができます。
報告書作成
点検作業や資料作成を終えたら、点検した橋梁の健全性を診断します。
橋梁の変状などの原因や状態を推定したうえで橋梁がどんな状況なのかを判断し、今後どのような状態になる可能性があるのか、技術的な評価をします。
健全性の診断結果の他、業務概要や各種参考資料などをまとめた報告書を作成したら、橋梁点検は完了です。
ドローンで橋梁点検をするメリット
橋梁点検にドローンを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
安全に作業が行える
ドローンによる橋梁点検は、従来の方法よりも安全性が格段に向上します。
高所に設置されがちな橋梁を人力で点検するには、足場に乗ったり命綱を使ったりします。
その際、足場や命綱に異常が起これば作業員の落下事故につながる恐れがあるため危険です。
ドローンなら遠隔操作で高所まで飛行し、橋梁の状態を撮影できます。
作業員はドローンのカメラを通じて、地上から目視でのチェックを行えるため、事故の危険性がありません。
短時間で効率的に点検できる
従来の橋梁点検では、交通規制を実施のうえ橋梁点検車を用意し、点検箇所に足場を作るという一連の作業が必須でした。
ドローンによる橋梁点検なら、大掛かりな交通規制は必要ありません。
多くのドローンは大人が1人でも持ち運べるサイズ・重量であるため、現場までドローンを持ち運んで作業員は定位置につき、操縦を開始すればすぐに点検作業へ着手できます。
効率的に点検作業を完了できるため、1日の間により多くの橋梁を点検できるようになります。
隅々まで精度の高い点検ができる
人力での点検では作業員が入り込めない場所が出てくるため、どうしても精度が落ちてしまいます。
しかし安全面と精度のどちらも担保できる点検を行うとなれば、準備に相応の時間と費用がかかります。
その点、ドローンなら上空でも小回りが利くため、作業員が点検しにくい場所もカメラで撮影してチェックすることが可能です。
さらに、赤外線カメラを使えばより詳細な箇所の異常も検知できるため、点検作業の精度も向上します。
人的・金銭的コストの削減が可能
ドローンによる橋梁点検は従来の橋梁点検よりも少ない工数で可能な他、橋梁点検車も不要なため、人的・金銭的コストの削減にもつながります。
現場に必要な人員はドローンの操縦者とその補助者であり、点検員は離れた場所でモニターから橋梁の状態をチェックすることが可能です。
そのため、必要最低限の人件費に抑えることができます。
橋梁点検車のリース代・交通規制に必要な人員と人件費・多くの作業員を現場へ向かわせるための交通費などがカットされ、低コストで橋梁点検を実施できることも大きなメリットです。
ドローンで橋梁点検をするデメリット
ドローンによる橋梁点検は様々なメリットがある反面、以下のようなデメリットもある点には注意が必要です。
悪天候時は作業できない
小型無人機であるドローンは、強風や雨など悪天候の影響を受けやすいという弱点があります。
国土交通省が公表している飛行マニュアルにも、安全確保に必要な体制として「風速5m/s以上の状態では飛行させない」と明記されています。
特に河川や橋梁の近くは気流が複雑であり、突風や急な吹き上げにも対応可能な操縦技術が必要です。
また、地方によっては特定の季節に悪天候が続くこともあるため、それを考慮した点検計画を立てなければなりません。
飛行許可が必要なケースがある
航空法では、総重量100g以上のドローンにおける飛行場所・飛行方法の規制が設けられています。
点検に必要なスペックを備えた産業用ドローンのほとんどは機体重量が100gを超えているため、あらかじめ航空法の規制を把握しておく必要があります。
点検の実施にあたって、飛行場所・飛行方法が航空法の規制に該当する場合は、国土交通大臣へ許可・承認申請を済ませなければなりません。
申請手続きは1日や数日で済むものではないため、思い立ったらすぐに許可・承認を得られるわけではないことを理解しておきましょう。
場合によっては従来の点検方法も必要
人力での橋梁点検では、橋梁をハンマーや専門機器で叩き、その打音の周波数から状態を診断する「打診」が行われていました。
橋梁から一定以上の距離を保って上空する必要があるドローンでは、打診の実施が不可能です。
現状のドローンの技術ではこれを克服するすべがないため、橋梁点検におけるすべての作業をドローンに任せることはできず、場合によっては点検員による作業も必要になります。
ドローンの橋梁点検に関する新技術
ドローンにより撮影された画像・映像を橋梁の維持管理に活かすには、様々な技術との組合せがカギとなり、そのための技術開発が進んでいます。
ここでは、ドローンによる橋梁点検に役立つ新しい技術の例をご紹介いたします。
画像処理技術
ドローンで橋梁部材を一定間隔で撮影し、その画像をつなげて1枚の合成画像にする技術があります。
カメラの画角に入りきらないほど範囲が広い箇所も、この処理技術で作成された合成画像ならひと目で確認できるようになります。
この合成画像は健全性の診断や一次スクリーニングに使う損傷図の代わりにもなり、損傷図作成の効率化に期待できます。
画像解析技術
現在のドローンによる橋梁点検では、撮影した画像からひび割れの幅や長さを計測し、それをトレースして損傷図を作成するという作業が発生します。
この作業の効率化につながる技術として新たに開発されたものが、社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」です。
ひびみっけでは撮影した画像を自動で合成し、チョークやひび割れを検出します。
検出したチョークやひび割れに対し、長さと幅を自動で積算し、CADデータ(dxfファイル)に出力するというものです。
3D化技術
ドローンで撮影した画像を元に、橋梁の3Dモデルを作成することも可能です。
点検だけでなく測量でも用いられている技術で、カメラで連続撮影した複数の画像をソフトに読み込むことで、その対象物が3Dモデルとして再現されます。
ただし現状としては橋梁の3D化に必要なデータを取得するための撮影方法や、専用のソフト購入といったハードルが立ちふさがるため、手軽に導入できないという課題があります。
AIシステム
橋梁の規模によっては、点検時に膨大な画像データを取り扱う必要があり、それらを管理・整理するには手間がかかります。
これを効率化するため、昨今はAIを利用して画像・動画データから損傷を抽出するシステムも開発されています。
点検に限らず、ドローンの産業利用ではAI技術が作業効率化に重要な存在となります。
今後もAI技術の発展に伴い、産業分野においてドローンの有用性がさらに発揮されることでしょう。
橋梁点検で使われる主なドローン
橋梁点検では、産業向けに開発された高性能なドローンが使われています。
その中でも有名な3つの機種とその特徴を、以下よりご紹介いたします。
Skydio2+
アメリカ最大のドローンメーカーである、「Skydio」が開発した産業向けドローンです。
AIによる自律飛行技術や障害物回避技術が搭載されており、従来は飛行が難しかった場所でも安定的かつ安全な飛行を可能としています。
屋内などGPSが取得しにくい環境でも、本体に搭載された6つのナビゲーションカメラでリアルタイムに取得したデータをもとに、安全に帰還させることができます。
229×274×126mmというコンパクトサイズでありながら、最大27分間の飛行が可能なパワーを兼ね備えていることも特徴です。
PF2-AE Inspection
国内の産業用ドローンメーカー「ACSL」が開発した、インフラ点検用ドローンです。
水平方向360°に対応した衝突回避技術を備えており、狭所や入り組んだ場所でも安全に飛行することができます。
また、ズーム機能搭載カメラや赤外線カメラなどの4つから搭載カメラを選べるだけでなく、同一のジンバルで使えるため用途に合わせて簡単に切り替えが可能です。
DJI Inspire 3
ドローンメーカーの最大手である「DJI」の、空撮フラッグシップドローンであるInspireシリーズの最新モデルです。
専用設計のフルサイズセンサーカメラ「Zenmuse X9-8K air」を搭載しており、8Kという超高画質映像の撮影が可能になっています。
また、機体に搭載されている障害物検知センサーは、水平・上・下で個別に有効/無効の切替ができるため、環境に合わせて安全かつ最適な飛行を実施できます。
橋梁点検だけでなく、映像制作など幅広い用途で活躍するハイスペックドローンです。
まとめ
橋梁点検では、橋梁点検車を準備する手間やコストがかかる・多くの作業員が必要・事故のリスクがあるといった課題を抱えています。
そんな課題の解決に有効な手段が、ドローンの活用です。
遠隔操作が可能なドローンなら、人力による点検が危険な箇所も簡単にチェックできます。
現在は画像処理・解析技術やAIなど、橋梁点検におけるドローンの有用性をさらに引き出す技術も開発が進んでいます。
将来的には橋梁点検にドローンを導入するハードルも下がり、より普及が拡大していくことでしょう。
この記事と一緒によく読まれている記事
-
水中ドローンの操縦に免許は必要?水中ドローンに関する資格を解説
-
ドローンの操縦に無線技士の資格は必要?必要なケースや資格の取得方法を解説!
-
ドローン測量管理士とは?新しく登場したドローン測量の資格を取得する方法を解説!
-
海でドローンを飛ばす際の規制や必要な許可申請は?海で飛ばす時のルールを解説
-
ドローン国家資格の取り方を解説!取るまでの手順や取得期間はどれぐらい?
-
ドローン国家資格の難易度は高い?試験の合格率や勉強時間はどれぐらい?
-
ドローンを使った橋梁点検とは?メリット・デメリットや橋梁点検で使用される新技術を解説!
-
ドローンの目視外飛行は飛行許可が必要?目視外飛行を行う条件や練習方法を解説!
-
100g未満のドローンを飛ばせる場所を解説!チェックすべき法律や飛行ルールは?
-
ドローンの高さ制限を解説!ドローンを飛ばせる高度はどこまで?
-
ドローンサッカーってどんな競技?ルールや始め方を詳しく解説
-
東京ディズニーリゾートがドローンショーを開催!ショーの中身や見た人の反応は?