技術の進歩や法整備に伴い産業分野への実用化が現実となったことで、業務効率化や労働者不足など様々な問題を解決しているドローン。
近年はAI技術も着実に進化しており、AIを搭載した機種の登場によりドローンの活躍の幅がさらに広がっています。
そこで今回は、AIを搭載したドローンは何ができるのか?AIの搭載にどんなメリットがあるのか?などについて詳しく解説いたします。
活用事例やAIドローンの機種もご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
近年はAIを搭載したドローンも開発されている
一般的に、ドローンとは様々な装置を搭載しながら上空に飛ばすことで、地上では不可能なアングルでの写真・映像撮影や人力では危険・非効率な作業を効率的に行うといった活用方法が可能な機器です。
これだけでも映像コンテンツ制作・農業・インフラ点検・測量など様々な業界が抱える課題の解決に期待できますが、近年はAIの搭載でさらに広範囲な領域で活躍できるドローンも開発されています。
ドローンが持つ可能性が最大限引き出されたAI搭載ドローンは、世界中のあらゆる分野で導入が進んでいます。
AIとドローンの組み合わせでできること
AI搭載ドローンは一般的なドローンとどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、AI搭載ドローンで活用できる機能の例をご紹介いたします。
カメラで撮影したデータの即時解析が可能
一般的なドローンは、撮影した画像データを表示することしかできず、解析が必要な場合は別途コンピューターを通す必要がありました。
AI搭載ドローンなら、機体のカメラで撮影した画像を即時解析のうえ、取得したデータから撮影場所の状況を把握して適切に情報を処理できます。
橋梁・鉄塔などの点検や災害現場での調査といった、周囲の状況把握の迅速性が重要視される現場に役立つ機能です。
周囲の情報を解析して自律航行ができる
自律飛行なら一般的なドローンも可能な機能ですが、あらかじめ設定した経路を辿るように飛行するだけに留まるため、障害物による衝突や飛行の停滞といったリスクを伴います。
AI搭載ドローンも基本的には設定された経路を辿って飛行しつつ、飛行の妨げとなる障害物の有無など周囲の状況も解析します。
状況に応じて自ら障害物を回避するための経路を新たに作り出すため、よりスムーズかつリスクの低い自律飛行が可能です。
より目的に適したカスタマイズが可能
AI搭載ドローンは、活用する分野や業務などに最適なカスタマイズが可能です。
特定の環境条件やタスク要件などに合わせてデータ収集の方法や飛行パターンをプログラムし、ドローンのパフォーマンスにおいてさらに精度を高めることができます。
また、新たなセンサー技術の統合やAIアルゴリズムの開発などにより、独創的なサービスの提供が可能となり、企業や組織としての成長の足掛かりも見出せます。
多数のドローンを導入する際の運行管理が可能
ドローンの運行管理システムにおいても、AIの活用が期待されています。
多数のドローンを同時に運行させる場合、他のドローンや航空機との衝突リスクを伴います。
そこで自動交渉AIを搭載したUTM(統合脅威管理)サービスを用いて運行管理することで安全性を高め、ドローンが現代社会の新しいインフラとしての立ち位置を確保できると見込まれているのです。
現時点で自動交渉AIによる運行管理システムは開発中のため、今後の実用化に要注目です。
取得したデータの解析による解釈や予測が可能
AI搭載ドローンは、飛行中に取得した画像・映像・センサー情報などのデータを解析して特定の傾向やパターンを学習します。
過去に取得したデータに基づく解釈と未来予測により、どんな業務をいつ実施しても効率を落とさず遂行することが可能です。
従来は専門家が長時間にわたり分析する必要があった傾向も短時間で解釈・予測できるAIは、ドローン活用が可能な分野だけでなく気象予報や交通量調査などの分野にも活かされています。
AI搭載ドローンによるメリット
AI搭載ドローンを業務活用することで、以下のようなメリットが得られます。
従来のドローンよりも少ない人手で業務が遂行できる
元々、産業用ドローンは自律飛行機能により点検・測量・調査・農薬散布などの業務を人に代わって遂行できます。
そのため、人件費によるコスト増幅や少子高齢化による労働者不足といった問題の解決に期待されています。
AI搭載ドローンなら飛行中に取得したデータをもとに自分で最適な判断を行うため、業務中で人が担う部分がさらに削減され、より少ない人員でも高精度なパフォーマンスでの業務遂行が可能です。
例えば農薬散布など飛行経路のパターンに大きな変化が起こりにくい場面では、人間のパイロットと同様の飛行経路を自分で生成させることも可能です。
そのため、AI搭載ドローンの開発技術がさらに進歩すれば飛行計画から農薬散布の完了まで、ほぼドローンだけで完結できる可能性もあります。
業務の安全性が向上する
AIによる高精度な自律飛行が可能となったことで、従来は距離や危険性という点で人の立ち入りが困難だった場所での調査・業務遂行も実現します。
例えば複雑で車両による出入りが難しい森林・山間部における監視、土砂崩れや落石の恐れがある自然災害現場の情報収集なども、AI搭載ドローンなら安全に遂行できます。
AIによる精密な業務遂行が人による操作ミスを防いだり、何らかのトラブルで重大な危機に見舞われる可能性を警告するといった活用方法も可能です。
高所やプラント内の化学設備など、少しの人的ミスやトラブルが人の健康に関わるような現場の作業にも大きなメリットをもたらします。
状況変化にもAIによる自動化で簡単に対応できる
先述したように、AI搭載ドローンは過去に学習したデータを集約のうえ傾向や未来を予測して自動的に最適な飛行経路を生成します。
飛行パターンが決まっている業務はもちろん、天候や地形など飛行経路やその周辺の状況が変化し得る現場でも、即座に情報を学習して新しい飛行経路を生成できます。
これにより、人の目で状況を把握して人の頭で対応を策定するというプロセスを削減できる点もメリットです。
AI搭載ドローンの活用事例9つを紹介
AI搭載ドローンは、すでに様々な分野で活用されています。
ここでは、AI搭載ドローンの活用事例を9つの分野ごとにご紹介いたします。
活用事例①:農業
農業分野においてドローンは、主に農薬散布の業務に活用されることが多いです。
AI搭載ドローンの場合は作物の生育状況を解析のうえさらにピンポイントな農薬散布が可能な他、播種から優良な作物の選抜の効率化にも活用されています。
AI検知による害虫・雑草検知やピンポイント防除
石川県農林総合研究センター農業試験場では、国産米の競争力強化に向けた近未来型水稲直播栽培技術の確立に向けた研究として水稲栽培へのAI搭載ドローンの導入実験を行いました。
AIを活かした部分としては、水田をドローンで空撮のうえ取得した画像をもとに、害虫(イネミズゾウムシ)による食害痕や雑草の数を検知します。
これにより防除が必要な圃場や地点をピンポイントで把握し、対策するというものです。
具体的には、食害痕の数から推定される成虫の数や雑草の発生数をカウントのうえ防除の必要性を判定し、必要と判定された部分にだけ防除を実施します。
全面防除と比較して殺虫剤の使用料や散布時間がカットされ、省力化・低コスト化を可能としました。
スマート育種評価法で効率的に優良な牧草を選抜
農研機構とバンダイナムコ研究所は、AI搭載ドローンを用いて優良な牧草を選抜する「牧草育種評価法」を開発しました。
従来の方法では育種家が畑を長時間にわたって歩きながら牧草を観察し、一株ずつ評価していく必要がありました。
一方でAI搭載ドローンによる評価法では、ドローンで撮影した画像から、事前に学習させたデータをもとに選抜作業を行います。
例えば1,000株もの牧草を育てる畑での選抜は、従来の方法では2時間程度を要しました。
しかしAI搭載ドローンの活用により、5分程度までの大幅な短縮が可能です。
加えて多くの優良牧草のデータを学習できるため、「育種家それぞれの能力によって評価の適正性が変わる」という問題も解決できます。
活用事例②:点検業務
点検業務においてドローンは、橋梁・発電施設・石油プラントなど広大・大型な施設や設備でも、業務の効率を高められる手段として注目されています。
高所の点検でも人が足場を組んで移動する手間が不要になるため、業務にかかる時間の短縮が可能です。
AI搭載ドローンであれば上記のメリットに加え、撮影したデータを自動解析して施設や設備の破損・劣化状況を判定できます。
人の目で状態の程度を診断するよりも正確な判定が見込めるため、さらなる業務効率化と異常の早期発見につながります。
活用事例③:災害救助
災害救助の現場では、AI搭載ドローンを自律飛行させて被災者の有無や被害状況の調査などを実施します。
高精度な自律飛行により複数のドローンを同時に運行でき、短時間で広範囲の情報を取得できます。
また、高ペイロードなドローンなら、上空の最短ルートを通って必要な物資を迅速に運搬することも可能です。
ドローン自動航行システムとAIによる災害現場モニタリングの自動化
NTTデータは防災ドローン自動航行システムを活用し、災害現場に多数のドローンを自律飛行させて映像を収集し、関係先へ映像配信・AIによる解析・物資運搬といった機能を提供しています。
被災状況が深刻な地域や交通インフラが脆弱な地域でも、最低限の人材で高度な災害対応業務が可能となるサービスです。
活用事例④:警備・セキュリティ
警備やセキュリティの分野では、ドローンによる高解像度の映像撮影とAIによる解析で異常行動を検知するといった活用方法があります。
広範囲の警備にかかる警備員への負担を軽減しつつ、セキュリティの向上にもつなげることが可能です。
セコムのAIドローンがスタジアム警備を行う
セコム・KDDI総合研究所・KDDの3社は、花園ラグビー場におけるドローンとAIによるスタジアム警備の実証実験を行いました。
スマートドローン・警備ロボット・警備員カメラによる4K映像を監視センターで監視するという実験内容で、スマートドローンはスタジアム周辺の上空からもみ合う人や転倒している人をAIで検知します。
ドローンから監視センターへ送られた映像は行動認識AIで異常性が判断され、「通常イベント時には起こり得ない状況」でアラートが表示されます。
5G端末との併用により高精度でタイムラグのない映像伝送も実現し、従来の固定カメラや目視による警備では叶わなかったレベルでの迅速な異常の発見・対応が可能となることが判明しました。
活用事例⑤:医療
AIとドローンは、医療の分野でも本格的な活用に向けて取り組みが進んでいます。
静岡県浜松市では交通機関の利便性が低い中山間地域における通院が困難な住民に対し、地元医師会や民間と協力して自宅へ医療サービスを届ける「医療Maas」の実証実験が行われました。
対象地域内の診療所へ継続的に通院している患者に対し、自宅へ出向いた看護師が持つタブレットを通して医師がオンライン診療を行います。
そこで処方された医薬品を薬局からドローンで飛ばし、患者宅へ届けることで診療から医薬品の受け取りまで自宅内で完結させるというものです。
AIによる航空管制システム開発を手掛けるトラジェクトリーも協力し、新たなテクノロジーと融合した一気通貫での医療提供の実現を目指しています。
活用事例⑥:測量
測量分野においても、AI搭載ドローンの相性の良さが示されています。
例えば「AI搭載ドローンによる森林内空撮と三次元モデルの構築」では、米国製AI搭載ドローンのSkydioを用いた森林内空撮と三次元モデル化の研究内容と結果が記されています。
同論文によると、樹木が並びGNSS信号の受信が困難な森林でも、AIによる自己位置の正確な把握と最適な回避ルートの演算で、安全にドローンを使った地形データの取得・三次元モデル化に成功。
これにより、AI搭載ドローンの活用による森林内調査の簡便化と省力化の有効性に対する期待が高まることとなりました。
活用事例⑦:生態調査
生態調査においては、AIによる航空機レベルのフェイルセーフ機能を持つ固定翼ドローンを使った有害動物検知実験が実施されています。
機体に搭載した赤外線カメラ映像を使い、約200haの山間部で30分間の夜間フライトを行って有害動物の位置を確認・調査するというものです。
結果、10分程度のフライトで3匹の有害動物の検知に成功しました。
活用事例:⑧軍事利用
AI搭載ドローンは必ずしも平和的に用いられているとは限らず、ロシアによる侵攻を受けたウクライナをはじめ、兵器・防衛装置としてAI搭載ドローンを利用している国もあります。
AI搭載ドローンによるスウォーム攻撃
ウクライナのカイムシン戦略産業相は「今年(2024年)は人工知能と無人兵器(ドローン)の年になる」と述べており、年内のAI搭載ドローンの実践投入を計画していることが示されました。
具体的には、飛行中に操縦士との通信が妨害されても自律飛行で攻撃する、互いに通信しながら編隊を組んでスウォーム攻撃を行うといったことが挙げられています。
ドローン攻撃に対抗する装置も開発される
AIを軍事利用しているのはロシアも同様であり、敵のレーダーや無線機を検知して内臓されたAIによって電波妨害の合図を自動で行う「ブィリーナ」が話題になりました。
元は対ドローン兵器としても開発されたブィリーナでしたが、ウクライナのドローンチーム「シャドー」により探知され、爆破されています。
自律飛行するドローンは電波妨害が効きにくい
AIによって自律飛行のうえ標的に照準を定めるドローンは、電波妨害で不利となるリスクが低い傾向にあります。
敵側の装置が電波妨害を可能とする範囲外からAIシステムを使って標的を特定・ロックオンすれば、その後は操縦士との通信が不要になり、ロックオンした標的への攻撃を実行できるからです。
現状として、AIシステムを用いたドローン攻撃を通信妨害で防ぐことはできないと言われています。
しかし、少なくともAIシステムはウクライナ・ロシアにおけるドローン戦争の中核となり得る存在です。
通信妨害を行う装置の利用と開発が進む現在、将来的にはAI非搭載である従来のドローンは攻撃において役に立たなくなると予想されています。
活用事例⑨:物流
AIを利用した自律飛行ドローンは、物流分野での活躍にも大きく期待されています。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)・東京大学・イームズロボティクスは、自動運航AIを搭載したドローンを用いた荷物配送の実証実験を行いました。
同実験は、人や車両など物体を認識する機能により安全を確保する「自律運航AI技術」開発の一環として行われたものです。
佐川急便相馬営業所から柚木公会堂までのルートにおいて、ドローンに搭載したAIが飛行中に人を検出したうえで自動的に一時停止し、人が移動して離れたタイミングで自動的に飛行を再開する機能が確認されています。
さらに荷物配送後の復路では、地理空間情報をもとにリスクの高いエリアを判別し、リスクの回避に最適なルートを生成したことも確認されました。
AIを搭載したドローンの機種を紹介
AIを搭載したドローンは、様々なメーカーにより開発・販売されています。
ここでは、有名なAI搭載ドローンの機種をご紹介いたします。
セコムドローンXX
国内でトップクラスの警備サービス会社であるセコムは、AIを活用して巡回・侵入監視を行うセキュリティドローン「セコムドローンXX」を開発しました。
2015年12月に開発したセキュリティドローン「セコムドローン」の機能をさらに進化させたもので、人や車両を検知する画像AIにより、監視員が不審な人物・車両と判断のうえ指定した対象を自動で追跡・撮影します。
Skydio2+
アメリカのドローンメーカーSkydioにより開発されたSkydio2+は、AIによる全方位の障害物の認識と回避が可能なドローンです。
機体に搭載された6つのセンサーカメラが360度撮影し、その画像をAIで解析のうえ自律的に回避しながら飛行します。
バッテリーの改良も施されており、最大27分間の飛行が可能です。
HOVERAir X1 Smart
中国のZero Zero Roboticsが開発したカメラ搭載ドローンHOVERAir X1 Smartは、99gと日本の航空法適用外でありながらAIを活用した撮影モードも備わっている高性能なトイドローンです。
初期状態では「ベーシックモード」として、ホバリング・フォロー・オービット・ズームアウトという撮影モードを選択できます。
ベーシックモードを何度か使用するとさらに複雑な飛行ができるアドバンスモードが解放され、ゲーム感覚で撮影の幅を広げることが可能です。
Parrot ANAFI Ai
Parrot ANAFI Aiは民間ドローンのパイオニア的存在であるフランスのParrotが開発した、AI搭載型産業用ドローンです。
特に写真測量に特化しており、AIで最適なフライトプランを自動生成することができます。
飛行中に撮影した画像はドローンマッピングソフトウェアであるPIX4Dcloudに直接送信し、着陸時に計算を開始するため、データ転送作業にかかる手間・時間の削減につながります。
D-HOPEシリーズ
中国のHARWARが開発したD-HOPEシリーズは、異なるペイロード・最大飛行時間で3つのモデルが展開されている災害救助用AIドローンです。
4K30倍ズーム・赤外線・暗視カメラや消火剤、救助用浮き輪、ボートなど多種多様なオプションが用意されています。
火事や市街地火災、海難・水害救助、災害孤立者救助など、救助の場面に応じて最適なシステムが備わっていることも特徴です。
消防車の通過可能なルートや有毒ガス・熱の有無などを探知して、安全かつ効率的な救助を実現します。
まとめ
AIを搭載したドローンは、飛行中に取得したデータから最適な飛行経路を生成するため、より安全な自律飛行が可能なことが特徴です。
AIはドローンの業務活用による効率化や省力化といったメリットを最大限引き出せる技術でもあり、実に多くの分野でAI搭載ドローンの導入や実証実験が行われています。
AI搭載ドローンの機種は現時点では少ないですが、今後はAI・ドローンの開発技術の進歩と共に増えていくことでしょう。
私たちの生活をさらに便利にしてくれるAI搭載ドローンが今後どのように社会へ浸透していくのか、これからも要注目です。
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