2022年12月5日に航空法の改正が実施され、ドローンの「レベル4」に該当する飛行が解禁となりました。
しかしレベル4飛行とは具体的に何ができるのか、レベル4飛行が社会にどのような影響を与えるのかなどについて、理解できていない方も多いのではないでしょうか。
今回はレベル4飛行の内容や解禁された背景、レベル4飛行の活用事例、レベル4飛行の実施に必要なことなどを詳しく分かりやすく解説いたします。
ドローンのレベル4飛行とは?定義と特徴
国土交通省は「目視内・目視外」「無人地帯・有人地帯」などの要素を元に、ドローンの飛行形態をレベル1~4に分けて定義づけています。
その中に含まれているレベル4飛行は、有人地帯にて目視外でドローンを自律飛行させる形態のことです。
具体的には、住宅やビルなどが立ち並ぶ人口集中エリアの上空で、操縦者や補助者が目視で監視しない状態でドローンを自律飛行させることを指します。
従来は禁止されていた飛行形態でしたが、2022年12月5日の改正航空法の施行に伴い解禁されました。
詳細は後述しますが、レベル4飛行の実現によりドローンの活用に関して選択肢が大幅に広がるため、更なるドローンの社会実装の加速に期待されています。
レベル別飛行の概要
レベル4の理解を深めるにあたって、他レベルの飛行形態についても知っておく必要があります。
各レベルの概要について、以下より詳しく解説いたします。
レベル1の定義と概要
レベル1飛行とは、「目視内での操縦飛行」を指します。
操縦者や補助者が目視で機体を監視しながら、手動で操作する飛行形態です。
例えば写真や映像を撮影するための空撮、機体を操縦しながらの橋梁点検などがレベル1に該当します。
無人地帯・有人地帯のどちらでも、目視・手動操縦であればレベル1となります。
ただし有人地帯でレベル1飛行を実施する場合、立入管理措置(第三者の立入制限)が必要です。
レベル2の定義と概要
レベル2飛行は、「目視内の自律飛行」を指します。
無人地帯・有人地帯にかかわらず、操縦者や補助者が目視で監視できる範囲内でドローンを自動飛行させる場合は、レベル2に該当します。
レベル2飛行の例としては、ドローンの自律飛行を利用した農薬散布や土木測量などが代表的です。
レベル1飛行と同じく、有人地帯では立入管理措置が必要になります。
レベル3の定義と概要
レベル3飛行は、「無人地帯・目視外での自律飛行」を指します。
目視で機体を監視できなくても、第三者が立ち入る可能性の低い場所なら目視外の自律飛行が可能です。
ただし、万が一の落下リスクを踏まえて立入管理措置を実施する必要があります。
レベル3に該当するケースとしては、離島や山間部への荷物配送や長距離に及ぶインフラ・河川の点検、被災地での救助活動などが挙げられます。
レベル3飛行の実施には、飛行ごとに国土交通省への許可申請が必要です。
レベル3.5の定義と概要
レベル3.5は、レベル4飛行の解禁からおよそ1年後に追加されたドローンの飛行形態です。
従来のレベル3飛行では目視外での自律飛行を補助者なしで行う場合、立入管理措置が必要とされていました。
しかし、以下の要件を満たした目視外の自律飛行であれば「レベル3.5飛行」として扱われ、補助者・立入管理措置なしでの実施が可能となっています。
- 国家資格を取得すること
- ドローン保険に加入すること
- ドローンのカメラで歩行者の有無を確認すること
昨今の運送業界で顕著となっている人手不足問題の解決にあたって、レベル3飛行によるドローン配送を活用したいという事業者が増加傾向にあります。
しかしレベル3飛行の要件では実施のハードルが高く、「緩和してほしい」という意見が寄せられていたため、レベル3.5飛行が新設されることになりました。
レベル4が実現された背景
レベル4飛行解禁の背景には、「新たなドローン活用のニーズ」があります。
ドローンについてはレベル3までの運用しか認められていなかった従来は、どうしてもドローンの活用シーンが限られてしまうという問題点がありました。
特に物流分野では運送ドライバー不足が深刻化している他、持続可能な社会の実現においても、温室効果ガスを排出する車両の活用は非効率的とされてます。
しかし従来の規制ではドローンを活用できるエリアが限られてしまい、有人地帯でドローン配送を実現することはできませんでした。
そこで政府は、「機体認証」や「操縦者の技能証明(国家資格)」などの制度を新設のうえレベル4飛行を解禁しました。
配送をはじめ、従来は不可能とされていた分野でのドローン活用を促進することで、国民の安全を守りながら利便性を向上させるといった狙いがあると言われています。
ドローンのレベル4飛行では何ができるのか?
レベル4飛行の定義は先述した通りですが、具体的に何ができるのでしょうか。
一例ではありますが、レベル4飛行の解禁で以下の用途にドローンを活用できるようになります。
- 橋梁、砂防ダム、工場設備などの保守点検
- スタジアムでのスポーツ中継、写真や映像撮影のための空撮
- 建設現場などの測量
- 森林資源調査
- 市街地、山間部、離島などへの荷物配送
- イベント施設、広域施設、離島などの警備や海難捜索
- 災害時の救助活動、救援物資輸送、被害状況の確認
レベル4なら、レベル1~3では認められなかった「操縦者が見ていなくても有人地帯でドローンを飛ばすこと」が可能です。
そのため機体に相応の性能が備わってさえいれば、1つの拠点から日本国内のどこへでもドローンを飛ばせます。
従来は規制により阻まれていたドローン活用の場が大幅に広がり、やがて日常生活の中で当たり前のようにドローンが飛行している未来が実現する可能性も考えられます。
ドローンのレベル4飛行で活用が期待できる分野
ドローンのレベル4飛行の解禁で、特に物流分野・インフラ点検・救助活動におけるドローンの実用化が期待されています。
ここでは、各分野で考えられるドローン活用の例やドローンを導入するメリットなどについて解説いたします。
ドローン宅配など物流分野
物流は、特にレベル4飛行解禁のメリットが大きい分野と言われています。
レベル4飛行により、ドローンを使った宅配業務の自動化や配達困難地域への荷物配送などが可能となりました。
従来はレベル3飛行の要件に従い、市街地上空を飛行しながら荷物を配送することまではできませんでした。
しかしレベル4飛行が解禁された現在は、1つの拠点からドローンを遠隔操作して全国の配達先へ飛ばし、届け先の玄関に直接荷物を置くといったこともできます。
このような活用方法で物流分野におけるドローンの普及が拡大すれば、少子高齢化による配達ドライバー不足・交通渋滞による配達遅延の回避・排気ガスによる環境汚染など様々な問題の解消が可能です。
また、近年は離島や山間部などの僻地では高齢化や単身世帯の増加がさらに進んでおり、市街地への買い物が困難な「買い物難民」が10年間で約4割も増加すると言われています。
ドローン配送が本格化すれば僻地への配達も実現でき、市街地の店舗や薬局などからドローンを使い、食料品・医薬品を直接送り届けるといったことも当たり前になるはずです。
インフラ点検
近年は点検に特化した産業用ドローンが数多く開発されており、橋梁・発電所・鉄道・道路などのインフラにおいてもドローンが導入されています。
従来は有人地帯の現場でドローンによる点検は不可能とされていましたが、レベル4飛行の解禁で今後は可能になることでしょう。
具体的には、人が多く通るエリアのインフラや工場、ビルなどに対してもドローンで精度の高い保守点検を行えるようになります。
本来、インフラ点検は検査作業員が高所に登って点検作業を行う必要がありますが、高所の作業には転落による負傷のリスクを伴うものです。
現に厚生労働省が公表した「令和4年労働災害発生状況の分析等」では、建設業における労働災害は墜落・転落が最も多いことが分かっています。
これまではドローンを使えず労働災害リスクが残っていた有人地帯の点検作業も、レベル4飛行の解禁でドローンに代行させることができ、人員の安全確保につながります。
加えて、ドローンは人の目と手による点検よりも効率的に作業を行えるため、少人数・短時間での運用が可能です。
これにより、「高齢化が原因の人手不足」や「ノウハウの継承が困難」といった問題も解消できます。
災害時の救助活動
近年は災害現場においてもドローン活用の注目が集まっており、すでに災害用ドローンの運用を開始している消防本部もあります。
従来の規制では、住宅街など人がいる現場での救助活動にドローンを使うことは困難とされていました。
しかしレベル4飛行が解禁された今後は、無人地帯・有人地帯かかわらず被災地の全域までドローンを飛ばして救助活動に役立てることができます。
例えば大規模な災害により孤立したエリアへ、ドローンを使って食料などの救援物資や救助活動に必要な物資を輸送することが可能です。
他にも火災現場では消防隊が到着するよりも早くにドローンで消火活動を開始したり、水害現場で溺れそうな人に向けて浮き輪を落としスムーズな救助活動につなげたりという活用方法ができるようになります。
救助活動だけでなく現場の被災状況を調査する災害調査も、ドローンなら迅速に済ませることが可能です。
迅速な災害調査で即座にハザードマップを作成する、搭載した赤外線カメラで被災地に取り残された被災者を発見しやすくするなど、ドローンは災害時にも数多くのメリットを生み出します。
ドローンのレベル4飛行に必要なこと
レベル4飛行の解禁でドローン活用の幅は広がりましたが、誰もが簡単にレベル4飛行を実施できるわけではありません。
レベル4飛行の実施には、大きく分けて機体登録・機体認証・操縦者の技能証明・運航ルールと運行管理体制の報告義務・飛行の許可承認申請という5つのルールを守る必要があります。
以下より、レベル4飛行に必要な各ルールの詳細について解説いたします。
機体登録
2022年6月20日、ドローンの機体登録制度が開始となりました。
レベル4飛行はもちろんそれ以外の飛行形態でも、航空法の対象となる重量100g以上のドローンを屋外で飛行させる場合は機体登録が必要です。
機体登録をせずに適用対象のドローンを屋外で飛ばした場合、航空法に基づき1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
なお、機体登録には3年の有効期限が設けられています。
引き続き当該の機体を飛ばしたい場合、3年ごとの更新手続きも必要です。
機体登録の方法
ドローンの機体登録をするにあたって、マイナンバーカードや運転免許証などの身分証明書が必要となります。
そのうえで国土交通省の機体登録システム(DIPS)でアカウントを開設し、以下の手順で手続きを済ませましょう。
機体登録が完了すると、当該の機体に対して「登録記号」が付与されます。
自動車のナンバープレートのように、登録記号が一目で分かる形で機体に表示しなければなりません。
また、機体登録と併せて「リモートID」の実装と登録も必要になります。
リモートIDについては以下の記事で詳しく解説していますので、こちらも参考にしてみてください。
機体登録にかかる時間と費用
DIPSを通した機体登録は、完了するまで2~10日程度の期間を要します。
これは国土交通省の開庁日と申請状況に基づく期間の目安であり、申請が集中している場合や内容に不備があるとさらに長引く可能性があるため、注意が必要です。
機体登録の手数料は、以下の通り申請方法によって変わります。
申請方法 | 費用 |
---|---|
マイナンバーカードを使ったオンライン申請 | 900円/1機(2機目以降は890円/1機) |
免許証やパスポートなどを使ったオンライン申請 | 1,450円/1機(2機目以降は1,050円/1機) |
書面での申請 | 2,400円/1機(2機目以降は2,000円/1機) |
上記に加え、外付け型リモートID機器を利用する場合は機器の購入費もかかります。
機体認証
機体認証は、後述する「操縦者の技能証明(国家資格)」と併せて2022年12月5日に開始となりました。
ドローンの設計・製造過程・現状という3つの項目に分けて検査を行い、国が定めた安全基準に適合していることを認証する制度です。
レベル4飛行を実施するドローンは、検査を実施のうえ機体認証を済ませる必要があります。
なお、機体認証は以下の2種類に分けられています。
- 第一機体認証
- 第二機体認証
レベル4飛行の実施が認められるのは第一機体認証を取得した機体だけなので、注意が必要です。
また、機体認証と混同されがちなものとして「型式認証」もあります。
型式認証は、メーカー側が機種ごとに設計と製造過程に関する検査を受ける認証制度のことです。
機体認証のために3つの検査をすべて受けるとなれば、多くの時間と費用が必要となります。
しかし各機体認証に対応した型式認証を取得済みの機種なら、3つのうち2つの検査が免除されるため、機体認証のハードルが大きく下がります。
注意点としては、機体認証も機体登録と同じく3年間の有効期限があります。
引き続きレベル4飛行を実施する場合は、更新検査を受けるための申請も必要です。
機体認証を取得する方法
機体認証を取得するには、DIPSを使ったオンライン申請か、日本海事協会が公表している検査申込書のフォーマットを利用してメール・郵送での申請が必要です。
DIPSで申請する場合の手順は、以下の通りです。
なお、申請前に申請者の連絡先や機体の情報、身分証明書など「必要情報」と呼ばれる情報を用意しておく必要があります。
必要情報の内容や申請手順の詳細などは、以下の記事をご覧ください。
機体認証にかかる費用
機体認証の取得にも、検査を受けるための費用がかかります。
レベル4飛行を実施するために必要な第一機体認証を、新規で取得する場合にかかる費用は以下の通りです。
状態 | 第一種型式認証の取得 | 飛行する空域の特定空域※の有無 | 金額 |
---|---|---|---|
新品 | 取得済み | – | 44,000円(2機目以降は43,000円) |
未取得 | 特定空域あり | 1,590,300円 | |
特定空域なし | 1,481,200円 | ||
中古 | 取得済み | – | 49,600円(2機目以降は49,000円) |
未取得 | 特定空域あり | 1,592,200円 | |
特定空域なし | 1,483,100 円 |
※特定空域:人口密度が1kmあたり1万5千人以上の区域の上空
当該機種は新品か中古品か、型式認証を取得しているか、人口密度の高いエリア上空で飛行させるかによって費用は変わるため、よく確認しておきましょう。
操縦者の技能証明(国家資格)
操縦者の技能証明とは、いわゆる「ドローンの国家資格」の取得です。
ドローンの国家資格には、以下の2種類があります。
- 一等無人航空機操縦士(一等資格)
- 二等無人航空機操縦士(二等資格)
国家資格と機体認証を取得することで、航空法で規制されている飛行方法のうち「カテゴリーⅡB」と呼ばれる以下の4つに限り、許可申請が免除されます。
- DID地区(人口集中地区)での飛行
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人や物から30m未満の距離での飛行
その他規制されている飛行場所・方法については、申請手続きが簡略化されることもあります。
ただしレベル4飛行の実施に関しては、一等資格と第一機体認証を取得した場合のみ認められるため注意が必要です。
操縦者の技能証明(国家資格)を取得する方法
ドローンの国家資格を取得するには、以下3つの試験と検査に合格する必要があります。
- 学科試験
- 実地試験
- 身体検査
試験対策としてドローンの知識を身につける方法は、以下の2通りです。
- 登録講習機関(ドローンスクール)を受講のうえ試験と検査を受ける
- 独学で試験と検査を受ける
登録講習機関とは、国土交通省から認定を受けて国家資格専用のカリキュラムを取り扱っている民間のドローンスクールです。
あらかじめ登録講習機関を受講しておくと、国家試験のうち「実地試験」が免除されます。
登録講習機関を受講する場合の、国家資格を取得する流れは以下の通りです。
具体的な流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
操縦者の技能証明(国家資格)にかかる費用
国家資格取得に必要な3つの試験・検査には、それぞれ受験料がかかります。
また、技能証明書を交付するための手数料も必要です。
ドローンのレベル4飛行の実施を前提とする場合に必要となる、一等資格の受験料と交付手数料の具体的な金額は以下の通りです。
【受験料】
- 学科試験:9,900円
- 実地試験:22,200円(基本)
- 身体検査:書類受検なら5,200円、会場受検なら19,900円
【技能証明書の交付手数料】
- 3,000円(新規申請の場合)
なお、ドローンの国家資格にも3年間の有効期限があり、更新申請のたびに2,850円の交付手数料がかかります。
また、登録講習機関を受講して国家資格の取得を目指す場合は受講費用も必要です。
受講費用はスクールによって変わりますが、一等資格なら「90,000~400,000円程度」が相場となっています。
運航ルールと運行管理体制の報告義務
国土交通省は、レベル4飛行の解禁に合わせてすべてのレベルに適用される「共通ルール」とレベル4飛行時に遵守すべき運航ルールの追加も行いました。
共通の運航ルール
レベル1~4まで共通する運航ルールは、以下の通りです。
ルール | 内容 | 備考 |
---|---|---|
飛行計画の通報 | 飛行ごとに、飛行の日時・経路・高度などの情報をDIPSから国土交通大臣に通報する | 飛行ごとの許可・承認が必要な飛行の条件として求めているもの(特定飛行)の場合に適用 |
飛行日誌の作成 | 飛行場所・飛行時間・整備状況などの情報を日誌(飛行記録および点検・整備記録様式)に記載する ※特定飛行を行う場合またはドローンを整備・改造した場合は遅滞なく日誌へ記載する | |
事故報告の義務 | 人の死傷・物件の損壊・航空機との衝突などの事故が発生した場合は、国土交通大臣に報告する | 許可・承認の必要性に関わらず適用 |
救護義務 | 自身が操縦する無人航空機(ドローン)によって人が負傷した場合、ただちに飛行を中止のうえ、状況に応じて救護・消防への連絡・警察への事故概要の報告などを行う |
なお、特定飛行であるにもかかわらず飛行計画の通報を怠った場合、航空法に基づき30万円以下の罰金が科せられます。
レベル4飛行の運航ルール
レベル4飛行を実施するドローンに関しては、上述した共通ルールに加えて「運航形態に応じた安全対策」も義務付けています。
具体的には当初予定していた飛行経路などから想定されるリスクを洗い出し、そのリスクの軽減策を盛り込んだ飛行マニュアルを作成し、その内容を遵守するというものです。
リスクを洗い出すための評価をする際は、福島ロボットテストフィールドが発行した「無人航空機の運航リスク評価ガイドライン」が役に立ちます。
無人航空機の運航リスク評価ガイドラインは、SORA(Specific Operation Risk Assessment)を参考として、日本の制度との整合を図ってまとめられています。
SORAは、JARUSが開発した無人航空機システムにおけるリスク評価の方法論を示したものです。
※JARUS:63ヵ国の航空当局および欧州航空安全機関やEUROCONTROLなど、日本や米国を含む世界中の航空規制に関する専門家のグループ
飛行の許可・承認申請
航空法で禁止されている空域でのドローン飛行を認めてもらうことを「許可」、禁止されている方法でのドローン飛行を認めてもらうことを「承認」といいます。
レベル4を含む禁止された飛行場所・方法で飛行を実施するには、その都度国土交通省への許可・承認申請が必要です。
航空法で禁止されている飛行場所・方法は、以下の通りです。
【飛行場所】
- 空港等の周辺
- 人口集中地区の上空
- 150m以上の上空
- 緊急用務空域
【飛行方法】
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人や物から30m未満の距離での飛行
- 催し場所上空での飛行
- 危険物の輸送
- 物件の投下
ただし緊急用務空域については「インフラの保守点検」「災害などの報道取材」など、緊急用務空域の指定の変更・解除を待たずに飛行が必要と認められるケースしか許可されません。
飛行場所・方法によっては航空法の他、すべてのドローンに適用される「小型無人機等飛行禁止法」や道路交通法、各都道府県の条例などに抵触する可能性もあります。
必要に応じて各種法令を確認し、管理者への許可を得たり飛行経路を見直したりといった対応も怠らないようにしましょう。
ドローンのレベル4飛行の実用事例
ドローンのレベル4飛行が解禁されて以降、国内でも少しずつレベル4飛行の本格化へ動いている企業が増えてきています。
ここでは、実際にドローンのレベル4飛行に取り組む国内企業の事例をご紹介いたします。
事例1:日本郵便とACSLによるドローン配送トライアル
2023年3月24日に日本郵便と国内ドローンメーカーACSLが共同で行った、レベル4飛行によるドローン配送のトライアルです。
改正航空法の施行後、国内で初めてレベル4飛行が成功した事例でもあります。
トライアルの内容は、東京都奥多摩町の中心部に位置する標高約340mの「日本郵便奥多摩郵便局」屋上から、標高約480mの集落までをドローンで往復するというものです。
集落までの道のりは日原川に沿って蛇行しており、車同士ですれ違えないほど狭い箇所や勾配が非常に急な箇所もあります。
さらに冬場は路面凍結や積雪もするため、バイクでの郵便配達が困難なため徒歩で配達を行うこともありました。
日本郵便は従来より配達オペレーションの改善を目的に、ドローンを取り入れた配送実証を行ってきました。
しかしレベル3飛行では無人地帯上空を選びながら迂回飛行する必要があり、道路に人や車両が通る際は一時停止しなければならず効率的な配送を実現することはできませんでした。
一方で今回のトライアルではレベル4飛行により、住宅地・道路・山の上空を一直線に越え、郵便局前から配達先の住民宅まで約4.5km・約9分の往復に成功しました。
日本郵便は今後の展望について、「今後はさらに積める荷物の大きさと重さを増やすと同時に飛行距離も延ばして、活用できるエリアを増やしていく予定」としています。
事例2:ANAによるドローン配送サービスの実証実験
ANAホールディングスは2023年11月8日に沖縄県島尻郡久米島町にて、レベル4飛行でのドローン配送サービスの実証実験を行いました。
久米島町に位置するスーパーマーケット「Aコープ久米島店」から真謝(まじゃ)地区の民家まで、ドローン配送で商品を届けるという実験です。
本実験にて、真謝地区の住民が電話注文した複数のお惣菜をドローンに積載し、店舗から2.3kmの距離をレベル4飛行で配送することに成功しています。
従来のレベル3飛行では店舗前の道路を横断するために機体を上空にホバリングさせ、道路に配置した補助者と操縦者で連絡を取り合いながら、無人となったタイミングでようやく横断するという非効率的な方法に限られていました。
しかしレベル4飛行の承認を得られるようになった今回は、補助者の配置や一時停止の必要もなくなったため、スムーズな飛行を実現。
1回あたり、約5分という短時間での配送が可能となりました。
また、本実証ではANAホールディングス社員が一等無人航空機操縦士を取得し、自らオペレーションを担当しています。
自社所属の操縦者が国家資格を保有し、レベル4飛行を実施した事例は国内初と言われています。
事例3:KDDIなどによる医薬品のドローン輸送の実証実験
KDDI・KDDIスマートドローン・日本航空(JAL)・JR東日本・ウェザーニューズ・メディセオによる、レベル4飛行での医薬品ドローン輸送の実証です。
2023年12月14日~12月20日にかけて東京都西多摩郡檜原村で行った実証であり、レベル4飛行の事例の中でも医薬品ドローン輸送は国内初の試みでもあります。
実証の内容は、期間中に「檜原診療所」から「特別養護老人ホーム 桧原サナホーム」まで、約70mの高度で飛行して平日13時に医薬品を定時輸送するというものです。
着陸地点の桧原サナホームの周囲には民家が立ち並んでおり、従来のレベル3飛行では無人地帯を飛行するために迂回が必要でした。
しかしレベル4飛行が解禁されてからは、許可・承認を得ることで民家上空を含めた最短ルートでの飛行が実現できるようになっています。
レベル3飛行では、檜原診療所から桧原サナホームまで約6.9kmの飛行距離を往復する必要がありました。
それに対しレベル4飛行を実施した今回の実証では、約4.8kmと30%程度の削減に成功しています。
さらに飛行時間もレベル3飛行の実施時と比べて24%程度の削減に成功し、遠隔運行管理の実現性がより確かなものとなったことが数値で証明されました。
今回は檜原診療所が取り扱っている第3類医薬品の輸送が行われましたが、将来的には処方薬の輸送も視野に入れているとのことです。
ドローンのレベル4飛行における課題
レベル4飛行の解禁によりドローンの社会実装がさらに進めば、様々な分野で利便性の向上・人手不足の解消・コスト削減といった恩恵を得られます。
その反面、レベル4飛行を実施するにあたって未だ複数の課題が残っているのが現状です。
ここでは、レベル4飛行において解決ができていない課題について解説いたします。
機体の安全性に対する懸念
レベル4飛行では人や車両が通る有人地帯の上空を飛行するため、墜落・落下などのトラブルが発生すると大事故につながる恐れがあります。
飛行中のトラブルを起こさないために、使用する機体は優れた性能を備えていることが求められます。
そのため、「機体認証制度」として国土交通省または登録検査機関にて検査が通った機体しかレベル4飛行に使うことができないのです。
第一種機体認証における具体的な検査基準は公開されていません。
しかし国内で初の第一種機体認証を取得したACSL製「PF2-CAT3」には以下のような性能が備わっており、これと同等の性能が求められていると考えて良いでしょう。
- 電動・自律制御が可能
- 地上局で挙動監視、異常時警報表示、緊急着陸どの指示に対応
- 非常用パラシュートの搭載
- 高いセキュリティ性
上記に加えて、製造工程・部品単位での安全性も認められています。
安全に飛行することはもちろん、ハッキングによる操縦乗っ取りを防ぐ対策や、万が一のトラブル発生時に迅速かつ適切な対応ができるような性能が備わっているかどうかもポイントです。
また、レベル4飛行の課金でドローン活用の期待が高まっている物流分野では、荷物を積載しながら長距離飛行をするためにバッテリー・モーターの性能も重要となります。
それも踏まえると、レベル4飛行に対応しうるドローンの開発・製造が可能なメーカーは未だ少なく、レベル4飛行とその対応ドローンが全国的に浸透するのはまだ先の話となる見込みです。
飛行の安全性に対する懸念
機体の安全性に加え、ドローン飛行における安全性を十分に確保することが難しいという課題もあります。
レベルに限らず、ドローン飛行には以下のようなリスクがつきものです。
- 機体が強風に煽られて墜落する
- 通信が途切れて機体が制御不能になる
- 電線に接触する
- 私有地に侵入して所有物を損傷させる
さらにレベル4飛行の普及が拡大すれば、有人地帯の上空でドローン同士が接触して墜落したり故障したりといったリスクも考えられます。
そのようなリスクに備えて十分な知識・技術を習得した操縦者にのみレベル4飛行を実施させるため、「操縦者の技能証明」という制度があります。
しかしどれだけ知識が豊富で技術に優れた操縦者でも、トラブルを完全に回避できるわけではありません。
レベル4飛行の安全性を確かなものとするには、複数のドローンの飛行計画・飛行状況の把握や気象情報などを共有できる、「運航管理システム」の技術開発を進めていくことも重要です。
分野によっては採算が取れない可能性がある
ドローンのレベル4飛行は、物流分野で深刻化している人手不足解消の糸口となりえます。
しかし、それは配送スタッフ1人につき複数台のドローンを飛行させることができる場合の話です。
先述したレベル4飛行の事例でも、基本的に1台のドローンにつき複数人のスタッフがオペレーションに携わっています。
つまり現状のまま物流分野にドローンを導入すれば、従来よりも多くの人員が必要となり、配達の非効率化や人件費の増幅が見込まれるということです。
1人につき複数台のドローンを使った配送を実現するためにも、機体性能・飛行の安全性を今より向上させなければなりません。
レベル4飛行に対応可能な操縦者が少ない
レベル4飛行を安全に実施するには、一等無人航空機操縦士の資格を保有している操縦者が必須となります。
また、ドローンのレベル4飛行を活用したサービスでビジネスを行うなら、プログラムを書き込んだり機体をカスタマイズしたりといったことができるエンジニアも必要です。
改正航空法の施行後は一等無人航空機操縦士に対応したドローンスクールも増えつつありますが、実際に資格を取得した操縦者は少ないのが現状であり、人材の確保は容易ではありません。
周辺住民のプライバシー・騒音トラブルへの対策
ドローンとレベル4飛行の普及が拡大すると、住民のプライバシー侵害や騒音トラブルの発生リスクも高まります。
飛行経路に住宅地や市街地が含まれていると、ドローンに搭載されたカメラで意図せず住宅内を撮影してしまう恐れがあります。
また、レベル4飛行に対応しうる機体は基本的に大型なため、飛行させると音が立ちやすく周辺住民に不快感を与える可能性も高いです。
周辺住民の理解を得たり、静粛性に優れたドローンの研究開発を進めたりといった対策が必要になります。
現状のドローン市場と将来の展望
ドローンのレベル4飛行が解禁されてから本記事の執筆時点で1年以上が経ちましたが、未だ普及率に大きな変化はありません。
しかし国内では様々な企業が協力してレベル4飛行の実用化に向けて取り組んでおり、すでに様々な実証実験が行われています。
少しずつではありますが、このような実証実験を通してドローンの社会実装を本格化させるための準備が着々と進んでいる状況です。
また、インプレス総合研究所が作成したドローンビジネスの市場規模予測(2022年度版)では、2028年度には国内のドローン市場規模が9,340億円にまで拡大する見込みとなっています。
参考:ドローンビジネス調査報告書2023 | インプレス総合研究所
レベル4飛行の解禁や着実に進歩するドローンの開発技術なども相まって、今後はドローンビジネスに新規参入する国内企業が増えていくことでしょう。
更なる拡大に期待されているドローン市場の傾向を踏まえると、まさに今がドローンを活用した業務改善や新規事業の立ち上げを検討するのに最適なタイミングと言えます。
ドローンのレベル4に関するよくある質問
最後に、ドローンのレベル4飛行に関してよくある質問を回答と一緒にまとめました。
ドローン飛行のレベルとは何ですか?
ドローンにおける「レベル」とは、人通りの有無や機体の操縦方法によって分けられた5つの飛行形態のことです。
レベル1・レベル2・レベル3・レベル3.5・レベル4という区分になっており、それぞれ実施するための条件が異なります。
レベル4飛行では有人地帯の飛行も可能ですか?
レベル4飛行では、有人地帯上空でも目視外の自律飛行が可能です。
例えば住宅地や市街地上空での荷物配送、人や車両が通るエリアのインフラ点検、スタジアムで行われているスポーツ試合の空撮などが行えるようになります。
レベル4飛行ではどんな資格が必要ですか?
レベル4飛行を行うには、国家資格である「第一種機体認証」の取得が必要です。
他にも使用するドローンの機体登録を済ませたり、第一種機体認証を取得したりする必要もあります。
レベル4飛行はいつから解禁となりましたか?
ドローンのレベル4飛行は、2022年12月5日から解禁となりました。
併せて、操縦者の技能証明(国家資格)制度や運航に係るルールも同日から開始となっています。
まとめ
ドローンのレベル4飛行とは、「有人地帯上空・目視外・自律飛行でドローンを飛ばす形態」を指します。
従来は全面的に禁止されてきた飛行形態でしたが、航空法の改正により2022年12月5日から解禁となりました。
レベル4飛行を実施するには、国家資格や機体認証の取得、許可・承認申請など様々な準備が必要となる他、安全性の確保や周辺住民への理解を得るなどの課題も残っています。
しかし本格的に実用化すれば、物流をはじめ様々な分野での問題解決や新たなビジネスの創造につながるというメリットを得ることができます。
レベル4飛行の解禁によりドローン市場の拡大が進む今こそ、ニーズの高まりに備えて操縦士資格の取得やドローンビジネス導入の検討におすすめなタイミングです。
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