人手不足や工事単価の高騰が課題となっている土木・測量分野において、ドローンの活用により課題の解消を試みる動きが高まっています。現状ドローン測量などでどのような使われ方をしているのでしょうか?今後の展望と併せて解説します。
土木・測量業界に求められているのは「効率化」
土木工事は発注者の8割が国や地方公共団体などの公的機関と言われています。
道路、トンネル、橋梁、港湾、ダム、空港、鉄道など私たちの生活に欠かせない重要な構造物を建設する工事を担っている訳ですが、前述のように公的機関からの発注がほとんどですので、国の方針や予算などに大きな影響を受ける業界でもあります。
戦後、日本の経済が大きく成長した時代には土木工事などの建設投資額が一時35兆円まで膨らむなど隆盛を極めましたが、バブル崩壊に伴って建設投資額が右肩下がりとなり、民主党政権下では2割削減されるなど厳しい状況が続きました。
東日本大震災の復興活動などもあって現在の建設投資額は微増していると言われてはいるものの、今後の人口減少や日本経済の停滞に伴い、徐々に投資額も減少してくるものと見られています。
また、近年では「人手不足による人件費の高止まり」が問題となっていて、公共工事の公募において予定金額での入札が行えず、再入札する事例が増えています。
この現状を打破すべく国土交通省は「i-Construction」と呼ばれる“IoT技術を導入することで人的負担の軽減を目指す取り組み”を進めていて、その中の一つにドローンを用いた測量や出来形測量があります。
ドローン測量は、ドローンによる空撮、および空撮した映像の解析を導入することで、手作業で一週間程度必要だった作業が1日~3日程度と、大幅に短縮することができるようになりました。
平成28年度においてはICT(Information and Communication Technology=コンピューターやインターネットなどの情報通信技術のこと)対象工事が584件に増えるなど徐々に導入され始め、国はさらなる普及を目指しています。
ドローンは土木・測量の現場ではどのように活用されているのか?
土木工事の流れとしては、
1.測量
2.設計
3.施工計画
4.施工
5.検査
の順に行われるのが一般的です。この中でドローンが活躍するのが「測量」および施工中に行われる「出来形管理」の部分です。
測量とは現場の地形を正確に把握するために「距離」「角度」「高さ」を計測する作業で、出来形管理とは工事が終了した箇所について「設計図通りの寸法や形状に仕上がっているか」を確認する作業です。
特に測量は従来「人の手で行うか」「航空機を活用するか」の二択でした。人の手で行えば時間がかかり、航空機を活用すればコストがかかるという側面がありましたが、ドローンを測量に活用することで効率化かつ低コスト化が実現したのです。
出来形管理においても、ドローンで行った測量時のデータと比較することで終了箇所の測定値と誤差がないかをより正確に計測することが可能になりました。
ドローンを始めとするICTを取り入れることで、
・精度が上がる
・作業が効率化する
・品質が均一化される
・作業員の安全性が向上する
といったメリットが得られるようになります。
なお、国土交通省のサイトにはこれまで行われたICT土工事例集が紹介されています。施工者の声も掲載されており、ドローンを用いた測量が現場で活躍している様子が窺えます。
事例1:レーザー測量
ドローンを用いた測量は大きく「写真測量」と「レーザー測量」があります。
写真測量とは一般的なドローン空撮による測量方法です。撮影自体は短時間で済みますが、その後膨大な量のデータを処理するために時間がかかってしまうというデメリットがありました。
一方、レーザー測量はドローンにレーザースキャナーを搭載する測量方法です。地表にレーザーを照射し、反射して返ってくるまでの時間を計測します。その時間とレーザーの速度によって「ドローンと地表までの距離」を算出します。
ドローンの位置を正確に把握するGPS技術、ドローンの姿勢を正確に把握するIMU技術、そしてレーザー技術、この3つを併用することで地表の測量が行えるのです。
写真測量と比べると短時間で済むほか、夜間計測が可能であったり、撮影後の処理時間の大幅な短縮が可能であったりなどメリットが多いため、今後普及する可能性が高い測量方法と言えます。
なお、この先進的な測量方法をいち早く取り入れたルーチェサーチ株式会社は、数kgもあるレーザースキャナーを搭載するために全長1.2m、プロペラ30inch、8ローターの大型ドローンを設計・開発したとのことです。
同社は河川の測量も手がけているのですが、やはりその現場でもドローンのレーザー測量が活躍しています。
河川の測量は人の手で測られることがほとんどで、特定の箇所の幅や深さを知ることしかできなかったのですが、ドローンレーザー測量の採用によって河川の細かな形状、正確な流量、増水時のシミュレーションなどが行えるようになったのです。
そのほか、災害時にもドローンレーザー測量が活躍します。
たとえば土砂災害においては崩れた斜面周辺の状況を知ることができますので、被害拡大を防ぐことに貢献するほか、地震後の地表状況を知ることで土砂崩れの発生を事前に察知し、周囲に避難を呼びかけることで被害拡大を防ぎます。
山の地表の測量は、写真では木々に遮られ、詳細な状況を知ることが困難でしたが、ドローンレーザー測量は見事その課題をクリアしたのです。
災害時以外でも、山中に何らかの施設を建設する場合の森林伐採計画、建設計画が容易になりますし、木々1本1本まで計測が可能なため、その山がどれだけの資源を持っているか確認することも可能になります。
ルーチェサーチ株式会社ではドローン機体とレーザースキャナー等のセットを2,500万円から販売しています。
写真測量用のドローン機体や機材と比べるとかなり高額ではありますが、このように様々なメリットがあることからも今後需要が拡大していくものと思われます。
事例2:ドローン空撮の活用
港湾工事や河川工事等を手がける徳島県の株式会社百々組では、測量ではなく「工事の進捗状況」等においてドローン空撮を活用しています。
一般に、工事期間中は「履行状況報告書」と呼ばれる進捗状況を報告する書類を発注元に提出する必要があるのですが、その際にドローン空撮を行い、その画像を添付しているのです。
文字および写真による局所的なイメージしか捉えることができなかった従来の進捗状況確認と比べて、ドローン空撮による俯瞰的な画像では直感的に進捗状況を知ることができます。
また、着工前の段階でも空撮画像を撮影することで、自社内はもちろん、発注元、下請けなどとの打ち合わせ時の資料として活用することができます。
図面ではなくドローン撮影による俯瞰的な画像の方がより具体的なイメージを持ちやすく、工事への理解が深まるほか、お互い連携しやすくなるなど、話し合いがスムーズに進むことが増えたとのことです。
竣工時にも、同じようにドローン空撮を行うことで発注元に工事の結果を確認してもらう時に役立ちますし、自社の施工例として今後の営業資料にも活用できます。
まとめ
ドローンはすでに、土木・測量分野において、
・人手不足
・工事単価の高騰
といった課題を解消するだけでなく、
・効率化
・精度や品質の向上
・安全性の向上
そして進捗状況や完成後の確認、写真測量では行えない災害時などの調査など実に幅広く活躍していることが分かります。
今はまだ導入が限定的ですが、今後さらに需要が高まり普及することで工事関係者だけでなく、たとえば工事現場周辺に住む住民に対しても空撮画像で工事の説明を行うことでより理解を得られやすくなる可能性もあります。
土木・測量分野において今後ドローンの潜在能力がどこまで発揮されるのか注目したいところです。
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