農業が抱える問題
「農業従事者の高齢化」「人手不足」「後継ぎ不在」これら深刻な問題を抱えているのが日本の農業です。若者の農業に対するイメージも「収入が不安定」「とにかく大変」「TPPによって悪影響を受けそう」といったマイナスなイメージが先行しています。
広大な圃場(作物を栽培する田畑)をわずかな人の手で一つずつ丁寧に作業し、夏の暑い日でも休むことができない厳しさ、それでいて天候に左右されてしまう収入の不安定さなど、確かに大変そうなイメージを抱いてしまうのは仕方がない部分もあるかもしれません。
しかし、農業分野におけるドローンの登場によって、そのイメージは大きく覆され、むしろ誤解を恐れずに言えば、ある種「楽しみながら」農業を営むことができるようになりつつあるのです。
農業用ドローンを導入するメリット
農業用ドローンを導入する最大のメリットは農作業の効率化です。
農業は土地の整備、種まき、収穫、出荷など1年を通して様々な作業があり、時間と人手が必要です。ドローンはそれらの作業を上空から一気に行えるので、一人当たりの作業面積が大きく増えます。
農業用ドローンを使用すれば、少ない人手でより多くの作業が行えるため、農業の問題点である「人手不足」や「作業が厳しい」といったマイナスのイメージを緩和することが期待されています。
他にも以下のようなメリットがあります。
・重機が入れない狭い場所でも持ち運んで作業が行える
・導入コストが小型ヘリコプターなどに比べて安い
・夜間での作業が可能
・農作物の状態や作業工程をデータ管理できる
このように、農業用ドローンは農作業を簡素化して効率良く行えるため、農業が抱える問題を打破する助けとなるでしょう。
農業におけるドローンの使われ方
では、農業でのドローンが実際にどんな使われ方をしているのか見てみましょう。
農薬散布
ドローンに農薬を積載して空中から散布する方法です。
これまで空中散布と言えば産業用無人ヘリなどを活用していましたが、この無人ヘリは1000万円以上もする高価なもので一人では持ち運びもできません。有人ヘリの場合も農協へ委託することになりますのでコストが大きく膨らみます。
およそ50ヘクタールで年間150万円、加えて農薬のコストもかかりますので、農家にとっては非常に大きな出費となっていたのです。
一方で、農業に使われるドローンは100万円~200万円ほどであり、一度購入すればあとは毎年のコストを農薬のみに抑えることができます。
さらに、ヘリよりも至近距離で散布することができますので、農薬の量を減らしながらより高い効果が得られやすくなるのです。
精密農業
一見同じに見える圃場や一つ一つの農作物であっても、細かくみてみると“ばらつき”があり、どれも同じではありません。
これまで農家の方の「経験や勘」を重視して行われてきた圃場や農作物の管理を、情報通信技術を導入することで各要素を数値化し、圃場や一つ一つの農作物をより最適に管理することで、農作物の収穫量や品質の向上を目指す手法が精密農業で、ドローンはこうした手法に適しています。
単純にドローンのカメラから得た情報を解析するだけでなく「マルチスペクトルカメラ」と呼ばれる近赤外線などの光波が取得できるカメラを搭載したドローンを自動航行させることでそれらの情報を合成し、指数化して分析します。
生育状況はもちろん、病気や害虫の兆候まで細かく知ることができるようになり、圃場や農作物を適切に管理することに繋げるもので、ドローンの農業活用方法として、有効なものであるといえます。
害獣対策
ドローンに搭載した通常のカメラのほか「サーマルカメラ」と呼ばれる赤外線を検出するカメラなどを駆使し、農作物に害を与える野生動物を監視したり対策を行ったりするものです。
特に近年、野生のクマ、イノシシ、シカなどが農作物を食い荒らしてしまう事例が後を絶ちません。空撮によりそれら野生動物の生態調査を行ったり、あるいは音や匂いを発することで追い払ったりすることができるようになるものと思われます。
収穫物運搬
収穫物をまとめて集荷施設へ運搬するのは、体力が求められる作業です。そこでドローンによる農作物運搬の実証実験が進められています。ドローンをコンテナに設置するだけで、あとは操縦で集荷場所まで運搬することができれば、労力の省力化を図れるでしょう。
課題として、ドローンの最大積載重量や安定した操縦技術、長距離飛行のためのバッテリー最適化など、農業用ドローン自体の性能と操縦者の技術向上という両面の解決が求められます。
肥料散布
農薬散布と同様に、肥料を積載したドローンで上空から肥料を散布する方法です。山間地域など作業性が悪いエリアでの作業効率の向上、労働負担の軽減が期待されています。液剤肥料は散布する量が増えてしまうため、粒剤での導入が主流となっており、農業用ドローンでの散布に適した肥料の開発を進めていくことが課題となっています。
播種
空中から種子などを播くことで労力、時間、コストの削減につながります。無人ヘリコプターでの播種はすでに行われており、今後はいかに均一にまくことができるか、散布技術の開発が求められています。
農業用ドローンAC1500での実際のドローン活用例
実際に農業用ドローンを導入するとどれくらいの違いがあるのか、農業用ドローンAC1500を例にしてみてみましょう。
AC1500は積載量が大きいことが特長の農業用ドローンで、1回のフライトで広い範囲の散布を行えます。
従来の手作業やトラクターなどで1haの農地に散布しようとした場合、液剤だと数時間、豆粒剤でも30分以上かかります。一方、AC1500を使用すると液剤は10分、豆粒材は5分で散布することが可能です。防滴仕様なので、突然の悪天候にも対応できます。
機体によっては全天候使用可能のものや、GPSによる土地データに合わせて最適な飛行ルートをプログラムするものもあります。天候や土地に左右されずに、作業を行えたり、作業時間を確保できたりするので、農業用ドローンを導入すると作業効率に大きな差が出ることがわかります。
ドローンを農業活用するに必要な資格
ドローンに操縦免許はないため、農業用ドローンを操縦するにあたっても必要な免許はありません。しかし航空法では、特定の空域と飛行方法をとる際には、許可承認を取るように定められています。
例えば、農薬散布の場合、「物の投下」と「危険物の輸送」の2つの承認申請が必要です。
この申請をするにはドローンに関する知識と10時間以上の飛行実績が求められます。最近では、農業活用を念頭においたドローンスクールもあるため、そういった場所で正確な知識と技術を学ぶことも、農業ドローン導入のための1つのステップとなるでしょう。
また、法規制ではありませんが、安全な散布のために、農林水産航空協会による技能認定、機体の登録、事業計画書の提出をすることが推奨されています。
農業用ドローンを導入するための価格は?
農業用ドローンのメリットがあったとしても、導入コストが高すぎれば普及は見込めません。農業用ドローンの費用はどれくらいかかるのでしょうか。目安としてかかるコストの内訳には、以下のようなものがあります。
機体購入費
100万円から300万円が相場です。中には100万円以下の機体もありますが、作業効率を求めるなら、最大積載量や安全性など、必要な性能を重視して選ぶようにしましょう。
代表的な機体と価格は、以下があげられます。
DJI「AGRAS MG-1」
180万円前後
エンルート「AC1500」
220万円から250万
ナイルワークス「自動飛行農薬散布マルチコプター」
約350万円
ヤマハ「YMR-08」
225万円
任意保険
プランによって差がありますが16,000円くらいから入れるものもあります。
メンテナンス、維持費
機体状態によって大きく異なりますが、農水協認定機体の場合は年に1回の定期点検が必要です。点検費用は1万円前後が相場です。
ドローンスクール費用
農業用ドローンについてきちんと学びたい場合は、専門のドローンスクールがおすすめです。スクール費用は20万円から30万円をみておくといいでしょう。
このように、ドローン導入には初期投資が必要です。そこで、導入コストが課題になる場合には、補助金や支援制度を利用することも1つの方法であると言えます。
自治体、農業組合、支援団体などが農業用ドローンを導入するための援助や融資をしているので、これらの制度を活用して導入計画を立てることもできるでしょう。
今後の展望
農家の方が自身で農業用にドローンを購入して上記のような作業に活用するのも良いでしょう。そうすることでこれまで人の手で行ってきた重労働から解放され、作業効率や品質管理が向上しますので生産性も高くなっていくでしょう。
しかし、それよりも大きな問題は「後継者がいない」ということです。
少し大げさかもしれませんが、このまま後継者が現れなければ、数十年後もしかしたら日本から農業が消えてしまうかもしれないのです。
そこで大きな期待を寄せられているのが、今回ご紹介したようなドローンの農業における活用方法です。
他のテクノロジーと連携することで苗を植えたり種を蒔いたりするのもオートメーション化できるようになるでしょうし、生育状態に応じて適切な水の量、農薬の量などを解析して与えることができるようになります。
ドローン関連事業者が農業に参入することで、新たなビジネスや雇用の創出にも繋がり、またドローンを活用して農業を営めば、たとえ初心者であっても圃場の管理、農作物の品質や生産性などベテランに引けを取らないクオリティを保つことが可能になるのです。
いずれにおいても、少ない人数で大きな効果が見込めます。
農業は、ドローンの登場によってアナログだったイメージから一気に“現代的なビジネス”へと変貌を遂げようとしているのです。
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