通常、人間がアクセスしづらい環境への到達を可能とするドローンは、非常に有用なツールです。
単なる趣味で空撮することからピザの配達まで、ドローンの活用範囲は多岐に渡っていますが、その一方で、ドローンが無秩序に用いられるならば野生生物に予期せぬ影響が生じる可能性がある、という研究もあります。
これまでのところ、規制は主に人の健康・安全・プライバシーに対するリスクに注目されるものばかりで、野生生物への影響は考慮されていないことがほとんど。
車やその他の人間の活動が野生生物に影響を与えることはすでに知られていますが、ドローンの場合はその普及速度の速さから、研究はまだ始まったばかりです。
そんな中、野生生物とドローンの関係を考える最前線になっているのが、ニュージーランドとタンザニアです。
絶滅危惧種の多くは人間の都市開発と娯楽のために生息地を追いやられる傾向にあり、ニュージーランドでは現在でもその多くの生活圏が保護区の外にあります。
さらに、人間に追いやられた種が別の種の生活圏を脅かすことも起こっており、特に沿岸地域でその懸念が顕著になっています。
たとえば、海洋哺乳類は航空機の騒音などの影響を強く受けることが広く認知されていることから、空港などの建設においてその生息地を避けるなどの考慮が行われてきました。
すでにニュージーランドではドローンは航空機とみなされ、民間航空法による規制が行われており、保護区においてドローンを飛行させたい場合は関連の省庁から許可を取得する必要があります。
しかし、保護区外の私有地での飛行では、野生生物への影響を管理する努力はドローン所有者の知識に依存することになることから、野生生物の保護に関して一貫性が保たれないおそれが喫緊の課題になっているようです。
また、ドローンの使用による影響はより局地的かつ従来の航空機とは異なるものになると予測されており、今後同国のワイルドライフ法(1953年制定)を改正すべきとする見方もあります。
一方タンザニアでは、ドローンが注目されているのは「密猟者」対策のためです。
タンザニアの国立公園上空を巡回するのはMartinUAV社の「Super Bat DA-50」。10時間以上の飛行時間と720km以上の航続距離を誇り、高性能の対人センサーを搭載しています。
タンザニアの国立公園には膨大な数のゾウやライオン、キリン、シマウマ、ヒョウ、ヒョウといった動物たちが生息していることで有名ですが、紛争が起きた周辺諸国の難民による密猟は何十年にもわたって行われてきました。
これまでは密猟者への備えといえば軽飛行機やヘリコプターを配備することであり、広い国立公園においてその運用は非常にコスト高で、非現実的でした。
2014年10月のタランギー国立公園、2015年5月と9月のセーラス・ゲーム・リザーブとムコナジ国立公園においてDA-50の運用テストが行われ、それぞれ数名の密猟者を捕捉することに成功し、検挙の大きな助けになったことが伝えられています。
しかし、タンザニアのケースでは高空を飛ぶ監視用ドローンが野生生物にもたらす影響についてはまだ測定に至っておらず、ドローンを通じた人間と野生生物の距離については、それぞれの国の状況に応じて知見が蓄積されていっている最中のようです。やがてはその知見が共有されていくことが望まれます。
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