近年、「空飛ぶクルマ」とも呼ばれ開発が進んでいる有人ドローン。
端的に言えば人が乗ることのできるマルチコプター(ドローン)ですが、ヘリコプターとは何が違うのか気になる方は多いことでしょう。
今回は有人ドローンとは何か、世界各国で開発された有人ドローンや将来の展望、価格・免許などについて詳しく解説いたします。
有人ドローンとは
有人ドローンは明確な定義がまだ決まっていませんが、主に以下2つの条件に当てはまるドローンを指す呼称として使われています。
- 乗員(機体に乗って運航や操縦をする人)が不要
- 人員輸送や旅客用途
ヘリコプターと似ているように思えますが、有人ドローンは基本的に自動操縦装置を備えた電動式マルチコプターであることが大きな違いです。
機種によっては完全な自動操縦が可能なものもあれば、最低限の姿勢制御のみ自動化させたものもあります。
有人ドローンは「eVTOL」の一種
eVTOL(イーブイトール)とは電動の垂直離着陸機のことで、ヘリコプター・ドローン・小型飛行機の特徴を兼ね備えた電動の機体のことを指します。
「空飛ぶクルマ」とも呼ばれる有人ドローンの主流になると見込まれており、滑走路が不要かつ飛行時の騒音が少ないことが特徴です。
さらに温暖化ガスを排出せず、整備コストもヘリコプターより低いなど様々なメリットがあります。
有人ドローンの歴史
・2011年
有人ドローンの開発が進むきっかけとなったのは、2011年にドイツ企業E-voloが試作した16ローター搭載の1人乗りの機体です。
以降は日常的に上空を移動できる「空飛ぶクルマ」などの用途を見据え、世界各地で有人ドローンの開発が行われていました。
・2016年
2016年にはラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショーで世界初の自律ヘリコプター型ドローンとして、中国企業EHang(億航智能)が1人乗りの「Ehang(億航)184」を披露しました。
さらに同年9月には、ドイツ企業ボロコプターも世界初の2人乗り有人ドローン「ボロコプター2X」の初飛行テストを行っています。
・2018年
2018年には、イスラエルが戦場で負傷者を輸送する「コーモラント」のデモフライトを実施。
同年にヨーロッパ企業エアバス、アメリカ企業ボーイングとベル・ヘリコプター、日本企業の日本電気など、世界各国の企業が有人ドローンの開発を進めると発表しています。
有人ドローンの開発は今後も各企業で進展することが見込まれており、新たな交通手段として社会実装される未来に期待が寄せられているのです。
各国で進む有人ドローンたち
世界各国で開発が進んでいる、有人ドローンの機種をご紹介いたします。
Ehang 184
Ehang 184は、中国企業のEHang(億航智能)が開発した8ローター搭載の有人ドローンです。
重量は約200kgで、人間1人を上空500mまで引き上げながら移動が可能です。
GoogleMap上のあらゆる地点へ飛行することができ、自動的に障害物を回避しつつ安全に離着陸を行います。
ボロコプター2X
ドイツ企業のボロコプター有限会社が開発した、「2人乗り自律型マルチローター電動ヘリコプター」です。
パワートレインは9つの独立したバッテリーシステムを搭載しており、それぞれクイックリリースが可能。
通常の充電時間は120分以内ですが、急速充電で40分以内となります。
最大飛行距離27km・最長飛行時間は27分ですが、クイックリリースのバッテリーを交換すれば連続飛行も可能と言われています。
将来的には遠隔制御や自律飛行で、無人ドローン・タクシーとしての利用も視野に入れられている機種です。
HOVERSURF社 ホバーバイク(S3 2019)
ロシア企業HOVERSURF社が開発した、1人乗りの「空飛ぶバイク」です。
ベンチュリ効果という流体力学を利用して独自開発されたエンジンを搭載しており、取り込んだ空気の流れを絞り込んでパワーを強めます。
軽量かつ頑丈なカーボン製ボディにはセンサーやバッテリーなどがコンパクトに収納されており、どんな高さでも快適に座って飛行することができる設計が特徴です。
eVTOLと呼ばれる電動の垂直離着陸機をベースとしたクアッドコプターで、すでにドバイ警察にて運用開始されています。
法規制に合わせて地上5mを時速96kmで飛行することができる一方、連続飛行時間は10~25分程度です。
フレームの軽量化や大容量バッテリーの搭載など、飛行時間をさらに伸ばせるよう改善が続けられています。
CityAirbus NextGen
欧州の大手航空機メーカーであるエアバスが開発中の、4人乗りeVTOL機です。
8つの電動プロペラで動くため二酸化炭素を排出しない航空機となっており、環境負荷の低減も実現。
最高時速は120km、最大飛行範囲は80kmとなっています。
プロペラはV字型のテール形状で、ヘリコプターと呼ぶには近未来的なデザインとなっていることが特徴です。
eVTOL機は主翼などが可変のタイプも多くありますが、CityAirbus NextGenは固定翼となっていることも他のドローンとは異なる点です。
空飛ぶタクシー
大阪府のタクシー会社である大宝タクシーが設立した、「そらとぶタクシー株式会社」が運営を予定している有人ドローン(eVTOL機)のタクシーサービスです。
2025年に運航開始を目指しており、2024年までに機体の導入や運航テストが予定されています。
現在導入予定の機体は、国内にて実証実験が行われているようです。
どのような機体が選定されるかは不明なため、今後の進展に期待をしたいところです。
MACA S11
2022年開催のコンシューマー・エレクトロニクス・ショーにて、フランス企業Maca Flightが公開した1人乗り有人ドローンです。
レーシングドローンをコンセプトとしており、炭素・麻・木質の次世代複合材製フレームを備えた全長7mの機体となっています。
MACA S11運転席後方の左右に2対・前方1対のローターを搭載しており、動力は35kWの電動モーター6個を使います。
最高速度は時速250kmとハイスピードな飛行を可能としていながら、燃料はCO2を排出しない水素を燃料として地球環境にも配慮していることが特徴です。
さらに先進技術を活用し、衝突回避機能・予知保全機能・半自動運転機能などの安全機能も搭載しています。
SKY DRIVE SD-05
愛知県に本社を構える株式会社SKY DRIVEが開発した、「空飛ぶクルマ」の商用モデルです。
2人乗りでパイロットが操縦しますが、コンピューター制御のアシストで安定した飛行が可能となっています。
現在は国土交通省の型式証明取得を目指しており、2025年の大阪・関西万博開催と同時に開始が予定されているエアタクシーサービスで運航予定です。
最大航続距離は約10km、最高巡航速度は100kmで移動することができます。
エアタクシーサービス以外にも、救急医療現場やリゾート施設へのアクセス手段としての活用も検討されています。
A.L.I. Technologies XTURISMO
東京都の株式会社A.L.I. Technologiesが開発した、1人乗りの実用型ホバーバイクです。
映画スターウォーズにインスパイアを受けて開発されたもので、「空中を駆けるホバーバイク」として2019年の東京モーターショーで公開されました。
XTURISMOはバッテリーとガソリンエンジンを搭載したハイブリッド機で、水上オートバイの下部に大型のプロペラを備えたような形状をしています。
前後の1つずつ備えられた大型のプロペラで浮上し、その左右に位置する中型のプロペラで姿勢を制御するという仕組みになっています。
ハンドルは設置されているものの、実際は周辺のスイッチ類で一般的なドローンと同様の操縦でコントロールします。
ただしバイクのように体重移動で横移動をする要素もあり、「乗り物を操っている」という感覚も楽しむことができます。
PAL-V International B.V. PAL-V Liberty
オランダ企業PAL-V International B.V.が開発した、2人乗りの空陸両用車です。
道路を走ることができる走行モードでは100馬力のエンジンで最高時速160km、飛行モードでは200馬力のエンジンを使い最高時速180kmで移動することができます。
飛行モードに切り替えると機体上部のプロペラや尾翼が展開し、ヘリコプターのような形状に変化する仕組みです。
すでに道路走行許可が降りており、PAL-V Libertyに乗ってヨーロッパの公道を走ることが可能となっています。
SKUU
株式会社プロドローンが救助現場の活用に向けて開発した、対話型パッセンジャードローンです。
大型のクアッドコプター型ドローンに足場が設置されており、機体を操縦する専任パイロットのみ搭乗することができます。
スピーカー・専用カメラ・専用マイクなどが搭載されており、要救助者へ声掛けや指示などのコミュニケーションを取りつつ救助アプローチができるという仕様です。
本体は折りたたみが可能で、車両積載で運搬することができます。
2019年開催のジャパン・ドローンにて初公開となったモデルですが、現時点(2022年12月)で詳細は不明ですが、今後の進展と社会実装の可能性に期待したい画期的なドローンです。
AEROCA
株式会社プロドローンと、その業務提携先であるカナダ企業AviDroneとの技術を組み合わせて開発中の有人ドローンです。
現在公開されている仕様情報によると機体上部に4つ、尾翼部分の1角プロペラが備わった2人乗り用の機体となっています。
動力は2パターンあり、電動モーターのみの場合は30分、発電機とモーターを組み合わせた場合は60分の飛行が可能な見込みです。
万が一のトラブルを想定して射出型パラシュートも実装する予定で、安全対策も考えられています。
Opner BlackFly
カナダのOpener社が開発した、1人乗り有人ドローンです。
2次電池(バッテリー)の電力でインバーターを駆動してモーター・ローターを回転させる、まさに「フル電動」な有人ドローンとなっています。
スリムな機体の前後に4つずつローターを備えた翼を搭載しており、ユニークな形状も特徴的です。
また、ローターがいくつか故障しても飛行の継続が可能な冗長性を確保している他、緊急着陸用のパラシュートも備えており安全対策も施されています。
なお、米国版の機体は2次電池容量8kWh・可搬重量90.7kg程度・最大巡航速度は時速99.8km程度ですが、国際版は2次電池容量12kWh・最大巡航速度は時速128.7km程度(可搬重量は不明)となっています。
Jetpack Aviation バイクスタイルモビリティ The Speeder
アメリカの企業Jetpack Aviationが開発した、eVTOL式空飛ぶバイクです。
4機のジェットエンジンを搭載しており、最高で時速240kmの飛行を実現しています。
前傾姿勢でバイクと同じように搭乗し、フライ・バイ・ワイヤ方式で飛行制御を行う仕様となっており、地上を走るバイクよりも安定した飛行が可能と言われています。
前方には12インチのタッチスクリーンがあり、高度・使用可能燃料・燃料燃焼率・バッテリーの状態など様々な情報を一目で確認することが可能です。
すでに民間用モデルは市販が予定されている一方、自律飛行が可能な軍用・商用バージョンも開発が進んでいます。
戦場や災害現場における負傷者の救助や、救急隊の移動など人命救助が必要なシーンにも活躍を期待したいところです。
各国で有人ドローンの開発は着実に進んでいる
すでに世界各国の企業が有人ドローンの開発・製造を始めていることは、今まで解説してきた通りです。
国によっては、すでに公的機関などで有人ドローンが実用化されている事例もあります。
日本政府も都市部での送迎サービスや離島・山間部における移動手段、災害時の救急搬送といったシーンで活躍を期待しており、世界に先駆けた実用化を目指しています。
国内企業においても有人ドローンの開発を進める企業が増え、将来的には日本の上空に有人ドローンが飛行する光景が当たり前になるのではないでしょうか。
有人ドローンの未来
日本では経済産業省・国土交通省が「空の移動革命に向けたロードマップ」を公表しています。
有人ドローン(空飛ぶクルマ)などによる、身近で手軽な移動手段の実現に向けた取り組みをまとめたロードマップです。
ロードマップでは2022~2023年度に有人ドローンの航空関連事業活用を開始することを目標としています。
そして2025年度の大阪・関西万博を起点とし、有人ドローンの商用運航を本格化させる予定です。
とはいえ、日本国内には法改正・インフラ整備・安全性やエネルギーの確保・社会にとっての必要性を浸透させる体制づくりなど数多くの課題が立ちふさがります。
世界各国と比べて有人ドローン実用化の取り組みが遅れていることは事実ですが、今後は政府や国内企業はいかにして遅れを取り戻せるのか、要注目です。
有人ドローンに関するよくある質問
有人ドローンに関してよくある質問を、回答と一緒にまとめました。
有人ドローンの価格はどれくらいになりそう?
機種によって価格は変わりますが、現在は約3,000~77,00万円の有人ドローンが販売されています。
- Volocopter 2X:約3,000万円
- Jetpack Aviation The Speeder:約4,200万円
- PAL-V Liberty:約6,000万円
有人ドローンの免許はどうなる?
2022年12月現在の日本では、有人ドローン(空飛ぶクルマ)の操縦者や整備者に関する免許に関して検討が進められています。
有人ドローンに対応した免許がまだ存在しないため、現時点で公道を飛行することはできません。
まとめ
有人ドローンは飛行機やヘリコプターよりも気軽に乗ることができ、道路渋滞や環境負荷の低減にも期待されている新たなモビリティです。
世界各国の企業が有人ドローンの開発・製造・流通を少しずつ進めている中、日本政府や企業も有人ドローンの実用化へ向けて積極的に取り組んでいます。
法律やインフラ整備など解決するべき課題はまだ残っているものの、有人ドローンが空を往来する光景が当たり前となる未来は着実に近づいているのです。
今後どのような有人ドローンの数々が誕生するのか、法整備や免許などはどのように設定されるのか、最新情報に要注目です。