ドローンから航空機業界を変えるImpossible Aerospace社

更新日: 2018.09.27 公開日: 2018.09.27
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近年、ドローンによって写真の撮り方は大きく変わってきています。それだけにとどまらず、ドローンによる農作物の管理や、不穏な活動の監視、インフラの管理などにも活用されています。このように、用途多様なドローンですが、実は1つ大きな弱点があります。バッテリーの持ちが悪いのです。

このバッテリー問題に解決策を打ち出したのが、カリフォルニアに本社を置くスタートアップ企業、Impossible Aerospace社です。同社は、Airbus社の投資事業部から、940万ドルもの資金援助を受けたことを2018年9月10日に明かしました。
Airbus社:ヨーロッパの航空宇宙機器開発会社

同社はドローンの設計について、従来とは全く異なる方法を考案しました。その結果、通常よくて2040分程度の飛行が限界であるDJI Phantomサイズのドローンを、最大で2時間飛行させることに成功したのです。

これにより、ドローンを活用している企業や事業は、革命を迎えることでしょう。しかし、同社のCEOであるSpencer Gore氏の目標はドローン業界に留まりません。彼は、航空業界全体に革命を起こそうとしています。

同社の考案した最新のドローン設計ですが、これは意外なほどに単純な発想です。従来のドローンは、骨格とプロペラを用意し、それらを動かすために必要なバッテリーを搭載するという形でした。これに対し、同社の設計では、骨格などを含めたドローン本体の全体にバッテリーを埋め込んでいるのです。

これにより、従来品と比べて比較にならないほど大量のバッテリーを搭載することができるようになりました。また、バッテリーを除いた部品の重量も当然ながら低く抑えることができます。それにより、従来品では実現できないような長時間飛行を実現したのです。

この単純ながら斬新な設計には、Gore氏がTesla社で電気自動車の開発に携わっていた経験が活かされています。その頃の電気自動車は、従来のガソリン車から燃料タンクを抜き去り、そのスペースにバッテリーを搭載するという形式が主流でした。

しかし、Tesla社が開発した電気自動車の設計モデルは違いました。
Tesla社:電気自動車等を得意とするアメリカの企業

バッテリーをフロア全体と一体化させ、その上にボディを重ねる形式をとったのです。このスケートボードモデルと呼ばれる革新的なデザインは、今では電気自動車設計の主流となっています。

Impossible Aerospace社が発表しているドローンの最終モデルUS-1は、市販のクアッドコプターとよく似た形状をしています。それでいて、飛行時間は4~6倍に伸びているということです。性能面でも、従来品に見劣りすることはなく、最高で時速50マイルでの飛行が可能となっています。

同社ホームページによると、カメラ付きの機体でも1時間以上の飛行が可能となっています。Gore氏はこのドローンが、様々なシーンで活躍できると期待しています。具体的には、個人安全、警察、消防、救急、研究などに活用できるとのことです。

また同氏は、バッテリーの寿命だけでなく、アメリカ国内で作られたドローンであるというブランド性にも価値があると話しています。近年、ドローン業界では中国製のDJIが主流となりつつあります。しかし、アメリカ国民は、セキュリティの観点から、この流れを歓迎していません。

同氏によると、DJI等の中国製ドローンは、その使用者が気づかぬうちに、ドローンに関するデータを収集されていると言います。アメリカ国民は、個人のデータがいつのまにか中国企業にわたってしまうことを懸念しているのです。

また、今後の展望についてGore氏は「US-1は、ただの1製品に留まりません。私はこの技術を元に、航空機業界に革命を起こすつもりです。最終的に当社は、乗客を乗せて飛ぶことができる、電気航空機を提供する会社となることを目指しています」と語っています。

同氏は、航空機もUS-1と同様のバッテリーから考えていく設計方針を活用することで、今までにない電気航空機を実現できると考えています。これが実現されれば、近年の苛烈な航空機業界の競争にも負けない、革新的な航空機が発明されることでしょう。

航空業界に旋風を巻き起こすスタートアップ企業、Impossible Aerospace社の今後の動向から目を離せません。