ハリケーンや大雨など、天災が街を襲うと、交通機関が麻痺します。車やバスは役に立たず、孤立した被災者たちは、ヘリの助けを待たなければなりません。こういった現状をドローンによって改善しようという試みがアメリカで始まっています。
2013年にミシシッピ州を襲った大型のハリケーンは、時速170マイルの強風で建物や車をなぎ倒し、周辺地域は一瞬にして瓦礫の山となってしまいました。この状態では、救急車が救助に向かうことはできません。特に農村部に位置する被災地は救助が大幅に遅れてしまいます。
医師であるサバーラオ氏は自身が災害を経験したこともあり、ドローンを使った応急処置を発案しました。このプロジェクトチームの用いるドローンは「HiRO」という名前が付けられています。これはHealth Integrated Rescue Operationsの頭文字をとったものです。
使用されるドローンはDJI S1000で、このドローンは一眼レフカメラなど比較的重いものも運搬できる高機能ドローンです。すべてのHiROドローンは医療機器運搬用に改造されており、災害時には最大で100人を治療する事ができます。
HiROが運ぶオレンジ色のハードケースには応急処置用の薬や医療器具が収納されており、災害時には救援部隊の指導で、車で向かえない場所へ向かいます。ただ、ここまでだと医療器具を運ぶドローンで終わってしまうのですが、HiROがすごいのはここからです。医師のリモートコントロールにより、患者に必要な薬品や治療器具が入ったケースのフタが開くのです。
さらに、HiROにはカメラが付いており、遠隔で医師とコミュニケーションをとることができます。また、Windows環境下で動作する「Microsoft HoloLens」というウェアラブルデバイスが付属しており、現場にいる人にスムーズに意思伝達をすることができます。HiROが実際にどのように動作するのかを再現した動画を観ると、よくわかります。
動画の後半にあるように、突然異常な反応が出た患者に対して、ドローンは、現場にいる他の人が応急処置をとることができるように助けることもできます。HiROが救急隊員などと連携を取ることによって、さらに効率的に被災者をサポートすることができるのです。
災害の場合、農村部は都市部に比べて、救急車の到着に2倍の時間がかかるといわれています。ドローンが先に被災地に向かい、心肺蘇生や止血などの応急処置をサポートするだけでも、患者の生存率は大幅に上がります。
連邦航空局 FAAは「BVLoS(有視界外飛行)」、つまり視界範囲を超えてドローンを操作することを公式に認めていないため、HiROが現実に被災者を助けるには、さらなる法整備が必要になります。幸いにもFAAはこのプロジェクトに対して積極的であるため、2018年中には難しいとはいえ、近い将来には実現する見込みです。